鬼滅の刃短編集 (ページ7)

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未亡人　宇髄天元ページ7

宇髄side
「よぉ、マリア」

こじんまりとした家に入れば淡い着物を着た女が出て来る。

「宇髄さん、お久し振りですね」

柔らかく微笑む女は鬼に襲われそうな所を俺に助けたのだった。

だが、その時には鬼により旦那を殺されていた。

「嗚呼、近くに来たから寄った」

近くに来た訳ではない、態々来たのだ。

この旦那を亡くし、涙にくれる女の元へ。

「何か食べられますか？」

「…お前が食べろ。前より痩せたんじゃねぇか？」

元より細かったがどうにもまた痩せたようだ。

持って来た土産を寄越せばマリアは目を丸めた。

「まぁ。あの人の好きだったお饅頭です」

良く分かりましたね、と言って女は仏壇に供えた。

偶然だ、それも酷い偶然だ。

女に会いたくて来たというのに口から出るのは旦那の話だけ。

いい加減に忘れてしまえと、言えれば良いだろう。

この女の涙に弱い自分では何も言えなくなるのだ。

「…ちゃんと食えよ」

「はい。宇髄さんも食べて下さいね」

手を合わせ終えたマリアは皿に盛り俺の前に饅頭を置いた。

「俺は食った」

「では、一緒に食べましょう」

柔らかく微笑む女の頬に涙の痕が薄く見えた。

「また、泣いたのか？」

「いえ、そんな泣いていませんよ」

困ったように微笑するマリアの腕を掴む。

「…宇髄さん？」

「死んだ人間は戻らねぇ」

丸い瞳が更に見開き俺を見詰める。

「分かっています。私、助けて頂いて本当に感謝しているんですよ」

「泣くな。寂しいなら、俺がいてやるから」

「…いえ、こんな遠くの家に足を運んで下さるだけで十分何です」

俺が側にいてやりてぇ。

「俺の屋敷に来ねぇか？」

「お誘いは嬉しいのですが…すみません」

丁寧に頭を下げられてしまう。

「…此処でずっと泣いてるのは良くないだろ」

すっとマリアの頬にある涙の痕に触れる。

「…まだ、あの人が生きてるような気分なんです」

ポロポロと涙を溢してマリアは言った。

無理矢理にでも連れ去ってしまえば良い。

こんな所で何時までも泣いているなら、忘れてしまえば良い。

「俺はお前が好きだ」

俺の言葉に派手に驚いたマリアは溢れんばかりの涙と共に目を丸めた。

「え…？」

「じゃなけりゃここまで来ないだろ。俺じゃ駄目か？」

マリアは一度嬉しそうに微笑し、困ったように笑った。

「ずっと…あの人が好きなんです。だから、ごめんなさい」

そう言ったマリアの表情は晴れやかだった。

「…派手にふられたぜ…」