トリップしたいなんて言ってない！ 中

漫画の世界　56 ページ6

「この近くなら男子生徒が女子生徒を殺害した事件ですかね」

「…その犯人に襲われたんですよ」

はぁ…と彼のため息が車内に響く。

「襲われたじゃなく襲われに行ったのでは？」

「そうですね、偶々遭遇したので犯人だと指摘した所刺されました。後は知っての通りです」

車は知らない家に止まり沖矢さんがマスクを脱いだ。

「君は人の忠告を聞く気があるのか？」

低い声に端正な顔立ち、私が好きな赤井さんだ。

「あります、FBIに入る気も」

その言葉に何も言わずに彼は私の服をめくった。

「思ったよりも深いな」

「死ななかったですし大丈夫ですよ」

その瞬間ぐりっと彼が私の傷口をえぐった。反射的に私の瞳に涙が滲む。

「ヒッ！な、何するんですか！」

「死ななかったという問題じゃない、君は本当に危ない事しかしないな」

そんなに痛みで分からせてくれなくても痛くて眠れない程なんだから勘弁して欲しい。

「痛いだろ？痛み止めがある」

「ッ！」

スッと渡された薬が手の平に置かれると思えば奪われた。

「意地悪」

「ふっ、君の涙目は悪くないな」

Sなのか？いや、それしかないな。

「くれませんかね？」

「良いぞ」

グイッと顔を上げられて赤井さんの唇と私の唇が合わさった。

「んっ！？」

流し込まれる薬は良いが、こんな渡し方しなくても。

「安室君と何があったんだ？」

落ち着く声色で私の耳に囁かれる。

ホストか！いちいち格好いい事ばかりされては困る。

「安室さんの事、多分好きになったんですよ」

多分だ、だって正直な所自分が自覚していないのだ。

あんな写真観るまで気づかなかった程だから。

「好きなのか？」

「分からないんですよ」

「俺は駄目か？」

緩く触れられる手先が一瞬震えた気がした。

「赤井さんですか？すっごくハイスペックな彼氏ですね」

彼が恋人になったら身が持たない、変な冗談も言える人だったのか。

「なら、恋人になろう」

「いや、無理ですよ。赤井さんには沢山いるでしょう？」

安室さんにも沢山いるな、ハイスペック過ぎる人達だから大変だろうなぁ。

「君が良いと言ってるんだ」

「私と恋人になったら大変ですよ」

ギシリと座席を言わせて後ろに倒した。

「聞き分けが悪い。好きだ、付き合ってくれ」

私に覆い被さるように彼は逃げ場を塞いだ。

ツキンっと胸が痛んだ気がした。

「お断りします」

「そうか、分かった」

しゅんとしょげている彼は益々好みの顔である。

「ウッ…可愛い///」

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