トリップしたいなんて言ってない！ 中

漫画の世界　88 ページ38

少し睨めば彼女はキョトンっとコチラを見た。

「嗚呼。零さん、お姉さん達と踊ったらどうです？」

彼女は俺が女性達と話したそうに見えたのか？

とんだ勘違いも良いところだ。

「違う、君はこっちに来るんだ」

「またね、綺麗なお姉さん達」

手を引いて人気の無い場所の方へと誘導する。

「対象が取り引きをする時刻まで少し大人しくしてるんだ」

「大人しくしてましたよ？」

「アレの何処が大人しくしてたんだ！」

女性達とベタベタとしておけと言った指示はしてない。

「対象には近付いてませんし、話を聞いてただけでした」

「目立ったら駄目なんだ」

「目立ってました？」

目立っていただろう、彼女の周りには女性達が集まり男共はソチらを見ていたのだから。

「嗚呼…これでも飲んでくれ」

強くない酒を渡せば彼女は喜んで受け取った。

「ありがとうございます」

本当に信頼されてるんだな。

「貴女に潜入捜査は今後させられませんね」

簡単に渡された物に口をつけるのは駄目だな。

「信頼してるんですよ？」

意図が分かったのか彼女はグラスを傾けて微笑んだ。

「風見だったらどうした？」

問えば彼女は可笑しそうに笑った。

「風見さんはそんな真似出来ませんよ！表情はもう読みやすいです！」

風見となんてこさせないがな、勿論他の男も駄目だ。

「零さん！あのっ…」

ハッと俺の後方を見てから彼女は声を潜めた。

対象の人物か？

コツリコツリと靴音が鳴り俺の後ろで止まった。

「ホー、君は男装もするのか」

バッと後ろを振り向けば思った通りの人物が立っていた。

「赤井！何でこんな所にいる！」

FBIには動きがなかった筈だ。

「赤井さん一人ですか？」

「少々気になる事があってな」

もう直ぐ取り引きが始まる時間だ。

「チッ…赤井、彼女を守れ！」

「言わなくてもそのつもりだ」

なるほど、この為に来たのか。

現場に行ってる間彼女は大人しくして置く訳がない。

一応スーツには発信機がついてはいるのだがな。

「零さん、気を付けて下さいね」

走り出そうとした俺に彼女は言った。

「嗚呼、くれぐれも動くんじゃないぞ」

ピッと携帯で電話を繋ぐ。

「風見、今から位置を送る」

取り引きがされてるらしく中には数人人がいた。

重たい扉を開かずに待機して置く。

何やら聞こえる声に耳を傾ければある男の会話が少し気になってしまった。

「今日のパーティーには珍しい者がいたぞ」

珍しい者とは…彼女の事でないと良いがな。

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