第百五十七話~アメリア編~ ページ10
*
その日も、ゼノの心は満たされなかった。
人間の世界で吸血をし終えた時のこと。
背後に気配を感じ後ろを振り返る。
「誰だよ、あんた」
キッ、と鋭い目付きでその女を睨みつけたゼノは持っていた人間をその場に捨てた。
それからはもう秒速。
あっという間にその女の心臓めがけて能力で創り出した刃物を突き刺し……____。
「遅いぞ、小童」
突き刺したと思った所には、もう女の姿はなかった。
ハッと今の事態を把握した時には、女は自分の後ろに立っていて余裕げな笑みを浮かべている。
けれど、ゼノは次から次へと攻撃を繰り返して女を殺めようとした。
けれど、その全てを避けられるのだ。
避けられるだけではなく、その女は口を開く。
「お主、中々よい術を身につけておるのう。」
ゼノは女の隙をつき横腹に足蹴り食らわせた。
それとほぼ同時に、女はゼノの首を目掛けて手を伸ばす。
「まだまだじゃのう。」
ギュッと、女の力とは思えない程の怪力で首を締められる。
突然の事にゼノは一瞬抵抗ができなかった。
いや、攻撃し続けたせいで体力が削れていたからかもひれない。
その時、ゼノは初めて思った。
初めて、感じた。
“殺される”という恐怖を。
意識が遠のく寸前で、女は首から手を離す。
地面に崩れ落ちたゼノは、酸素を求めるように何度も荒い呼吸を繰り返した。
「お主はいつまでそうやって逃げ続ける。」
女の声が、耳に響く。
その言葉は、ゼノの壊れかけた心にトドメを指すには十分過ぎた。
「うるさい!!黙れ!!!!」
「お主は、自分の生き方を、正しいと思うておるのかえ。」
「うるせーよ!!なんだよ、何なんだよ……っ!!!
俺だって分かってんだよ、こんな生き方が間違ってるって言うのも!!
……けど、しょーがねぇだろ、こんな生き方しか知らないんだよ…っ!!!」
そう、心の奥底までを叫んだゼノの言葉に女は、そっと手を差し伸べた。
その瞳は、温かさに満ちている。
「無知は罪じゃ。
だが、その無知な輩を野放しにしておる奴等は大罪にも等しい。
無知ならば知るしかなかろう?知りたいのなら、妾が教えてやろう。
お主の心を、満たしてやろうじゃないか。
この手を取れば、世界を変えてやるぞ。」
月明かりに照らされたアメリアの妖艶な笑みは、この世の生き物とは思えない程美しかった。
俺はその日、アメリアの手を取ったんだ。
その時から、俺の世界は確実に色付き始めた。
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