第四十六話 ページ48
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授業中。
と言っても、教室ではなくホールでホワイトボードを使用して行っているのだが。
板書の内容をノートに写す手を止めて、辺りを少しだけ見回した。
珍しく、理事長がいる。
いつもはあんな感じであるが、責任感は強いので何かあれば皆を守ろうとしているのだろう。
その佇まいは、中々に頼もしかった。
授業が終われば、普通に休み時間を過ごす。
そしてまた授業。
これを数回繰り返していくうちに、昼休みの時間へとなってしまった。
「クロエ嬢」
そう名前を呼ばれ、後ろを振り返る。
言わずもがな、そこに立っていたのは理事長だ。
その後にはゼノも立っている。
何を言い出すのかと思えば一緒にご飯を食べようというランチのお誘い。
まぁ、この人達の意図は分かっている。
「…貴方達の考えなんて手に取るように分かるわ。どうせ私を守ろうとしているんでしょ?」
「分かっているならば、妾と一緒にいてくれぬか」
「嫌よ、余計なお世話。自分の身は自分で守るもの放っておいて。」
クロエの冷たい声色が、自分の心にも響いた。
理事長も困ったように悲しそうに、眉を寄せている。
ゼノも同様に何とも言えない顔をしていた。
「それは出来ぬ。己自身も分かっておるであろう?人間如きが我等に勝てぬと言うことも。
自分の血が…「やめて!放って置いてって言ってるでしょう!!」…クロエ嬢。」
「アメリアもゼノも、私にはもう構わないで。そんな暇があるなら他の人を守ってちょうだい。」
そう言ってクロエは踵を返して人混みの中を歩いていった。
理事長とゼノの呼び止める声を聞かず、自分の耳を塞いで心も塞いで。
まだ消えぬ恐怖を抱きながらも、いつものように平然を装って底知れぬ道を1人で歩いていく。
取り残されたゼノと理事長は、二人揃って溜息を零した。
この2人の…特に理事長のクロエに対する執着に、人間を除いた生徒達が疑問に持っていたりする。
一部は人間から事情を聞いている者もいるようで、先程の光景を悲しそうな表情で見ている者もいた。
さて、なぜ人間だけは知っているのか。
それは、人間の吸血鬼の違い…というやつだろう。
吸血鬼が知らない外の世界を知っている人間達。
それは、人間達にしか分からない価値観から生まれている。
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