第四十二話 ページ44
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辺りを見渡せば、既に踊っている人がちらほら見えた。
さて、どうしようか。
そんな事を考えていれば、今頃になって彼と2人でいるのだと、何だか恥ずかしい気持ちになる。
その思考を振り払うように、彼に声をかけてみた。
「ね…ねぇ、これからどうするの?別に踊ってもいいけれど…。」
と話しかけて見れば、返事が返ってこなかった。
折角勇気出して話しかけたのに、と不満げに彼の顔を覗き込む。
視界に写ったのは、悲痛を含んだ表情。
ここ最近一緒にいる機会が増え、感じたことがある。
それは、彼はたまに何かに対してさっきの様な表情を浮かべるということだ。
その姿見ると、何だか胸が痛む。
そうなる理由も知らないのに、笑っていてほしいなんて思う私は只の馬鹿なのか。
彼にとって、それは残酷な願いなのかもしれないのに。
願わずにはいられない。
でも、それでも心配だから。
友達とはまだ言い難い関係性。
だけど、出会う前みたいに全然親しくない仲じゃない。
只ちょっと親しいだけ。
ちょっと親しい人のカテゴリーに含まれる私の、ちょっと心配するこの気持ちを久しぶりに持った。
他人に干渉はしたくないのに。
心配だと感じない方が楽なのかもしれない。
なんて事も少しは思った。
まぁ、実際彼に対してそんな事恥ずかしくて言えるはずもなく、数歩だけ歩き出した。
案の定、どうしたのかと言わんばかりの表情を浮かべている彼にふいっとそっぽを向きながら口を開く。
「…折角遅くまで残ってダンスの練習したんだから、本番で踊らないと意味がないでしょ?」
そう言って、そっと彼に手を差し伸べた。
基本的にこういう場の誘いは男の方からするものなのだが、不器用な彼女ながらにダンスのお誘いをする。
ぽかんとこちらを見つめる彼の表情に、幼さを感じて可愛いな なんて関係ない事を思っていた。
それから小さく笑みを零しまた彼は、そっと私の手を取ってくれる。
あぁ、もう…。
私ってつくづくお節介のお馬鹿さんね。
誰にも干渉しないって、決めたのに。
結局はゼノやアメリアだけじゃなくて、彼にまでちょっとの心配という感情を持ってしまっている。
今よりもっと仲良くなれたら、なんて。
私らしくもない___。
そのまま彼にエスコートされ、私達は中心部へと移動した。
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