第四十八話 ページ50
*
ホールを出てすぐ。
曲がり角の所にクロエは座り込んだ。
そして、小さく溜息を零す。
それと一緒に弱々しい声が零れてきた。
「あぁもう…。」
やめて欲しい。
優しい言葉をかけるのは。
心配されてる事ぐらい分かってる。
生半可な気持ちの心配じゃない事も。
それこそ、自分を犠牲にしてまでも守ろうとしてくれている事も。
そこまで鈍感じゃないから。
全部全部、分かってる。
分かってるからこそ、嫌なんだ。
優しくされるのが、心配されるのが、守られるのが、嫌で嫌で仕方ない。
それに甘いそうになる自分が、1番嫌で。
頼ってしまいそうになる自分が、心底嫌だ。
それじゃダメなのに。
ずっとずっと、そんなの知らない環境で、強く自分で生きてきたのに。
今更壊さないでよ。
今更私を否定しなで。
こんな生き方しか知らないの。
自分の事は自分でしなきゃいけないって、小さい頃からそうやって育てられてきたから。
それこそ、自分の事は自分でしろって。
自分の身は自分で守れって。
“頼る”なんて言葉知らない。
私は知らない。
知らない、知らない知らない知らない。
信頼も、頼ることも、親愛も、擽ったくなる程の愛も。
何もかも。
そんな暖かい言葉は、知らないの。
……違う。
知らないじゃない。
与えられていないの…___。
また零れた、何度目かも分からない溜息。
戻ろうと立ち上がった瞬間。
廊下の暗闇から、人影が見えた。
ほんと、最悪…。
え、このタイミングで人に会うの嫌なんだけど。
なんて思いながら、自分の運のなさを呪いたくなった。
ゆっくりと立ち上がって自分である事を認識されないうちに逃げよう。
そう思って一歩踏み出した時。
「此処にいたのか。」
聞き覚えのある、彼の声が聞こえた。
思わず振り返った瞬間に、何だか違和感を覚える。
なんか、違う…。
私の知ってる彼じゃない。
というかこの人、何でこんなに“嬉しそう”なの…?
いつもと違う彼に、思わず一歩退いた。
本能が告げる、彼は可笑しい、と。
逃げろと。
「何でもないわ。貴方に関係ないでしょ。」
こっちに来ないで。
近付かないで。
歩み寄らないで。
初めてだ。
出会ってから初めて、彼に対して“拒絶”という感情を持った。
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