十柱 ページ10
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一人目の審神者はとても穏やかで優しい男性だったという。
刀剣男士が怪我を負えば心配し、人の体について何も知らない彼らに一から全てを教え、彼らをとても愛していたという。
相模国支部の中でも有名な優良な本丸で、最前線で戦っていたらしい。
その当時まで実装されていた52口を揃え、笑いの絶えない暖かい本丸だったそうだ。
「私めにもお気を使ってくれる、とても優しい審神者様でございました」
「…今残っている神様方は、その審神者様の…?」
「はい。その中でも比較的練度が高かった方々が残っていらっしゃる様でございます」
懐かしい、とでも言いたげなこんのすけの声を聞きながら、雑巾を軽く絞る。
そして机や棚を拭いていく。
「本来ならば、あそこまで練度の高い刀剣男士が揃っていながら折れることはあり得ないのです」
本来ならば、ね。
一人目の審神者様は結婚を機に審神者であることを辞めたらしく、刀剣男士様に祝福をされながらもこの本丸の行く末を最後まで憂いていたという。
後任に着く人物は、人格者であってほしいと。
しかし、本丸を継いだのは政府の重要なポストに着く人間の娘。
刀が全て揃っているところがいいとわがままを言い、政府がちょうどこの本丸に目を付けたという。
「ああ、ありそうな話だ」
「…はい。その娘は見目麗しい刀剣男士をひどく気に入り、その中でも特に気に入った男士を夜中に部屋に呼び出しました」
思わずこんのすけの話に手を止めそうになる。
が、それを堪えて雑巾を握る手を動かした。
“夜に呼び出す”
私ももう大人と呼ばれる年齢だ。
どう言った意図なのかは、言わずとも知れた。
「それに応じたの、神様方は?」
「いいえ勿論拒否いたしました…!しかし、」
グッと眉間らしき場所にシワを寄せた狐は、すうっと息を吸い込む。
それから、ゆっくりと吐き出した。
ヒートアップし過ぎたと、自分でも気づいたのだろう。
「申し訳ありません、お見苦しい姿を。…あの娘は、酷く小賢しく、卑怯な者でございました」
感情を押し殺した声は、初めてこの狐を見た時と同じだ。
ただしその時との違いは、感情を押し殺し切れてないこと。
怒りや悲しみ、苦しみなどが滲む声はとてもじゃないが作られたものだとは思えなかった。
「…人質を、取ったのです」
こんのすけは、苦しそうに顔を歪めてぽつりと、言葉を零した。
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作者名:甘夏蜜柑 | 作成日時:2019年4月10日 21時