五柱 ページ5
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「…管狐のこんのすけでございます。審神者様、どうぞよろしくお願いいたします」
『ゲート』と呼ばれる鳥居の門の横に置かれた台の上で、ペコリと器用に頭を下げる二頭身の狐。
その顔にはパソコンのイラスト通りの歌舞伎役者の様な隈取りがしてあった。
デフォルメちっくな口から滑り出るのは流暢な日本語。
異様な光景だ、狐が喋るなんて。
アニメか何かでも見てるみたい。
「この管狐が、貴女様の担当になります」
そう言った柏木さんは、一歩管狐が座る台へ近づく。
そして、ぼそりと音量を絞った声で呟いた。
「SGMNo.560、次は強制刀解だと伝えておけ」
「…はい」
サガミナンバー…相模国の、っていう意味かな?
強制“とうかい”も、意味がわからないな。
…私に聞かせない様に音量を落とした時点でいい意味ではなさそうだが。
「…審神者様の担当は私、柏木です。こちらをお持ちください」
「スマホ、ですか」
「はい。その中には私のメールアドレスと電話番号が入っています。ネットなどもご利用いただけますし、審神者同士の交流手段として用いてください」
手渡されたスマホを受け取り、ポケットの中に入れる。
それを確認した彼は、鳥居の横にある装置を素早く操作した。
次第に、鳥居の内側が歪み、灰色の壁が消えて真っ黒な空間が広がる。
「では、こちらのゲートを用いて本丸へ。基本的なことはこんのすけが全てご説明いたします」
「…柏木さん、ひとつだけよろしいですか?」
「如何致しましたか?」
さあ、と手を差し出す柏木さんに視線を移す。
ゆっくりと進み、あと一歩で鳥居の闇に飲まれると言うところまで歩き、振り返った。
彼はやはり、にっこりと笑っていた。
「私は…貴方方にとって都合のいい存在だったのかもしれません」
「…さにわ、様…?」
しかし、私のその言葉によってスッと柏木さんの表情は抜け落ちる。
少し前で座っている管狐の困惑の声に反応することもなく、私は思う。
…ああ、やっぱり。
この人の笑顔は、笑顔じゃない。
私は基本的に無表情で過ごしており、無感情を繕っている。
それは過去の出来事に起因しているのだが、今は置いておいてもいいだろう。
事実、マンションに彼が訪れてからこの場所へ来るまで、私は無表情を貫いていた。
「…なぜ、そう思われたのでしょうか?」
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作者名:甘夏蜜柑 | 作成日時:2019年4月10日 21時