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神様が、一柱 ページ1




「さにわ、ですか」

「はい。審神者です」


目の前には黒いスーツに身を包んだ、比較的顔の整ったお兄さんがにっこりと笑っている。

ネクタイもジャケットも真っ黒で、ワイシャツはシミのない白…まるで喪服のようだ。


「…さにわ」

「このような字を書いて、“さにわ”と読みます」


テーブルの上に置かれた分厚い資料の一番上の端に書かれた文字は『審神者』。

どうやらこれで『さにわ』と読むらしい。

普通に生活していれば知ることのなかったであろう言葉に違和感を覚えつつ、短く息を吐いた。


「A A様に審神者になっていただくべく、本日は参りました次第です」

「…私、もう就職決まってるんですけど」


中学、高校、専門…と順当に学習を終え、就職先もこの間内定をいただき決まったばかり。

来年度からは社会人だと気合いを入れたのはつい3日ほど前のこと。


「申し訳ございません。時の政府からの『勅命』なのでございます」


…勅命ってこの時代にあったの?


申し訳ございませんと言う割には一切笑みを崩さない彼は言う。

先程からピクリとも動かない能面のような寒々しい笑みは、心なしか圧を感じる。


「本来ならばゆっくりと審神者という職に関してご説明する所ではありますが、申し訳ございません。時間が限られておりますので道中ご説明いたします。ああ、申し遅れました」


淡々とした声で機械的に言った彼は、私に一枚のカードを手渡す。


「私、時の政府 人事部 選任科 柏木と申します」

「…時の、政府」

「ええ。政府のことも、移動しながらご説明します」


そう言った彼は、つい先程広げたばかりの書類をしまい始める。

それを視界の端に入れながら、ジッと手元の名刺を見つめた。


「では、こちらにサインを」


書類をしまったカバンとは別のカバンから、彼は一枚のファイルを取り出す。

そこに挟まれた一枚の紙と、彼のスーツの胸元に差されていた万年筆を手渡される。

サインをしてくれといわれざっと目を通せば、マンションの契約を切ることが書いてあった。


…拒否権はない、か。


横暴すぎると思いながらも、目の前に座る男の笑みの圧に押し負け万年筆を紙に滑らせた。

その紙を確認した彼…柏木さんは既に浮かべていた笑みを、更に深める。


「では早速、参りましょうか…審神者様」


有無を言わせない声にゆっくりと立ち上がった。

二柱→



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作者名:甘夏蜜柑 | 作成日時:2019年4月10日 21時

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