どこかの世界線で、何かが始まる前の話。�� ページ10
．
「…さむ、」
あの場所に、来ていた。
週に一度は必ずこの場所に来るようにしている。
私が、何のために生きているのかを自分自身に言い聞かせるためだ。
『前』に、スコッチが凭れていたように私も座る。
そして、そのまま空を見上げる。
店を閉めたばかりで、もうそろそろ日が上がり始めるような時間だった。
星は見えず、ただ月が青白くその姿を晒す。
ふう、と吐いた息が白くて、指先がだんだんと温度を失っていく。
「何でこんなこと、やってるんだろうなぁ」
それは、ただ純粋な疑問だった。
今度こそ関わらないで生きればよかったんじゃないかと、自分に問いかける。
それでも彼らと出会わないと言う選択肢がないものだから、私は笑ってしまう。
きっと、絆されたのだろう。
『一度目』の時に向けられた、小さな名探偵の、あの真っ直ぐな瞳に。
私を心から救おうとしてくれた彼に。
だからそれに充てられて、私も誰かを救う事ができるんじゃないのかと思ってしまった。
「もう一度、会いたいなあ」
「誰に？」
ガチャリとドアが開くとともに、姿を現した緋色さんに驚く。
妙に焦ってしまったが、諸星さんの姿はない。
今日は例の日でないのだとわかって、少し安堵の息を吐いた。
「なんでこんな所に、」
「こんな夜も明けそうな時間帯に知り合いが廃れたビルに入ってったら気になるだろ？」
「それもそうか」
呆れたように笑って、彼は私に手を差し伸べる。
それを掴めば、力強く引かれて立ち上がってしまった。
「冷たッ。ほら、送るから帰ろーぜ」
大袈裟な態度に、暖かい優しさに、じんわりと胸の辺りが暖かくなる。
ありがとう、と言って笑えば彼は苦笑いで口を開く。
「実はさ、透と諸星が教えてくれたんだよ。Aちゃんのこと」
金属製の階段で音を立てながら降りていく。
今でも下で、彼らは待っているらしい。
「あの日からさ、俺が避けちまってたから…気ぃ使ってくれたんだ」
「そう、だったんだ」
「…悪りぃ、別にAちゃんのこと嫌いになったとかじゃなくてさ。ただ、顔合わせづらかっただけなんだ」
謝罪をする彼の顔に偽りはない。
本当に、気まずかっただけなんだろう。
「…私があんな話をしたからだよ。ごめんね、まだ整理がついてなかったみたい」
「いや、」
「貴方に、話すべきじゃなかった」
そう言って会話を終わらせた。
彼の顔は、見れなかった。
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さち - おもしろいです。続きが早く読みたいです。よろしくお願いします。 (2019年5月22日 0時) (
レス) id: 43b8d3401a (このIDを非表示/違反報告)
Blanche*(プロフ) - 思わず泣いてしまった....... 続きが気になります!! 無理のない範囲で頑張って下さい!!!!!! 応援しております!!!!!! (2019年5月21日 22時) (レス) id: 5327bf9003 (このIDを非表示/違反報告)
ナシ(プロフ) - コメント失礼します！おもしろいし、感動して何度も泣いてしまいました。続き気になります！更新頑張ってください！！ (2019年5月21日 18時) (レス) id: 9c83a487c9 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - めっちゃ面白いです！！ほんとに！！更新楽しみにしてます！ (2019年4月4日 14時) (レス) id: cb719f86c6 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - 大好きで何回も何回も読み直してます！！更新待ってます！！ (2018年9月27日 7時) (レス) id: cb719f86c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：甘夏蜜柑
| 作成日時：2018年3月24日 0時
