どこかの世界線で、何かが始まる前の話。 ページ8
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「Aちゃんもお酒強いの?」
「さあ?酔うまで飲んだ事がないので」
「ザルかよ…」
緋色さんは日本酒の熱燗を、私はスコッチのロックを飲んでいる。
この酒は、『前』からよく飲んだ。
スコッチ、ライ、バーボンは特に。
懐かしい、と思う。
けれど、彼等三人と飲みに行くことはあってもサシで飲んだ事はなかった。
それは私が黒の組織の人間であり、彼らがNOCであったことが原因だ。
きっと、本当の意味で私のことを彼らが信用したことはなかったし、私も全てを話さなかったのは…そういうことだろう。
「ねぇ〜敬語やめない?今は客じゃないんだからー」
「いいけど、緋色さんは私よりも年上じゃない?」
「そんなの気にしないって!やっぱ敬語の方が仲良くなれるじゃん?」
頰を少し上気させてご機嫌に言う彼のこの言葉は、どこまで本当なのだろうか。
なんて、ただのバーのマスターに探ることなんてないか。
緋色さんは、迷うように言い辛そうに吐き出した。
「この店の名前の由来、前に教えてもらっただろ?」
「…うん、なんか気になることでも?」
「…あー、なんかさ何となくだけど、他人事じゃねぇっていうか」
あご髭を触りながら視線を落とした彼に、心臓がズクリと騒ぐ。
息が一瞬詰まったような気がして、それを誤魔化すためにグラスに口付けた。
「他人事、じゃない?」
「はは、何つーか、なあ。こう、胸んとこがざわつくっつうか」
困ったように笑う彼は、左胸を…心臓を掴むようなジェスチャーをする。
は、と小さく息を吐く。
「…なんつー顔すんの、Aちゃん」
そんな泣きそうな顔しないでよ、と彼は心臓を掴んだ手で私の頭を撫でる。
温もりがあることに、下げた視界はたまらず歪んでしまう。
「…心臓を、ね」
私は、震える右手を伸ばした。
そして、抵抗をしない彼の左胸に手の平を当てる。
「銃で、自ら…撃ち抜いたんだって、」
「、Aちゃん」
「私の…私の、可愛い後輩、だったんだと…思う」
ボロボロと溢れる涙を、伸ばしてない方の手で拭った。
とくん、と手の平を伝わる振動。
大丈夫、まだスコッチのここは動いている。
「三人とも、私の…大好きな…部下だったんだよ」
「なぁ、」
「ごめんね、やっぱり…少しだけ酔ったのかもしれない」
私は笑って、飲もうか、と彼の心臓から離した右手でグラスを揺らした。
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さち - おもしろいです。続きが早く読みたいです。よろしくお願いします。 (2019年5月22日 0時) (レス) id: 43b8d3401a (このIDを非表示/違反報告)
Blanche*(プロフ) - 思わず泣いてしまった....... 続きが気になります!! 無理のない範囲で頑張って下さい!!!!!! 応援しております!!!!!! (2019年5月21日 22時) (レス) id: 5327bf9003 (このIDを非表示/違反報告)
ナシ(プロフ) - コメント失礼します!おもしろいし、感動して何度も泣いてしまいました。続き気になります!更新頑張ってください!! (2019年5月21日 18時) (レス) id: 9c83a487c9 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - めっちゃ面白いです!!ほんとに!!更新楽しみにしてます! (2019年4月4日 14時) (レス) id: cb719f86c6 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - 大好きで何回も何回も読み直してます!!更新待ってます!! (2018年9月27日 7時) (レス) id: cb719f86c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:甘夏蜜柑 | 作成日時:2018年3月24日 0時