▽ ページ22
(side 白石)
「あんたはいいわよね、立派な一家の娘で、結婚を前提に付き合ってる彼氏がいて」
「そんないいもんじゃないよ、立派な一家の娘って」
「まず、もっと早くあんたが戻ってきてれば」
「緋山の方が適任なんだよ、フェロー育成」
「そんなこと言って、自分は小児の論文書いたりしてんでしょ？」
「私だって好き好んでやってるんじゃない！」
仕事おわりに医局に戻ると緋山先生と有栖先生がいい争いをしていた。フェローのこと、プライベートのこと、患者のことなどを全てぶつけている。
緋山先生はそのまま医局を出ていき、Aは苦しそうな顔で下を見つめ、唇を噛み締めていた。
お互いがそれぞれしっかりとした芯がある2人は、たまにぶつかる。そしてぶつかると、今のように傷付き合って動かなくなる。
「何があった」
「…なんにもない」
「嘘だな。白石、緋山を頼む」
「うん」
藍沢先生がAの腕を引いて、当直室に入っていく。フェロー時代から仲の良かった2人は、つい最近やっとくっついて、より一層 連携や雰囲気が丸くなったと思う。
緋山先生はどこに行っただろうか。
(side 藍沢)
医局外まで聞こえるくらいの喧嘩。たまに起きるぶつかり合いで、俺はAの腕を引いて当直室にはいり、鍵を閉めた。
「どうした」
「…わたし、緋山にひどいこと、」
大きな瞳に涙を溜め、唇を噛むA。唇をそっとなぞり、その力を抜いてやる。涙もぬぐい、そっとその華奢な体を抱きしめた。
引き金は何か分からないが、取り敢えず喧嘩なのは間違いない。
「謝んなきゃ、」
「まずは泣きやめ」
出会った時からそうだった。人のことばかり気にしていて、自分はすべて後回しにする。
周りから、家のことで何か言われても、言い返さない。自分の気持ちは後回し。そんなAが唯一同等に言い合いをするのは緋山だけだ。
ある程度Aが泣き止んだあと、控えめにドアがノックされた。鍵を開けると、緋山と白石が入ってきた。緋山はバツの悪そうな顔をしながらAに謝った。Aも謝り、すぐに仲直りをしていた。
喧嘩するほど仲がいいってやつだと思う。喧嘩をしてもすぐ仲直りをしている。女の世界は俺にはよく分からないが、長年上手くやっているのだから不思議だ。
「仲直りもしたし、帰ろっか」
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作者名：ろみー | 作者ホームページ：
作成日時：2018年6月13日 19時
