背中にあった翼はどこにもなくて…。【男主】

2歩目 ページ3

｢これを数学的帰納法で証明すると、ー｣

先生に声をかけられて、やっと席に座ったおれは、数学の授業なんて聞いていられず、昔のことを思い出していた。


楽しかった思い出は山ほどあるが、
最終的には、スガさんのトスを打つことが出来なかったあの日を思い出してしまう。



おれは、空中戦で負けたことはなかった。
まあ、この身長に多少の跳躍力があればスパイクしやすいしな。
コントロール力と跳躍力にはすこし自信があるし。

烏野のWエース

空の支配者、…とか呼ばれてたっけ。

まあ、こちらとしてはそんな異名は迷惑でしかないが。

スパイクを決めることに対して、今まで積み重ねてきた自信があった。
どシャットされることは稀で、止められてもおれのことを信じてくれている仲間がいる。


だから、おれは思い切り打てた。
だから、あの景色が見れた。
だから、決めることができた。





けど、あの時、おれは打つことすら、飛ぶことすらできなかった。


視界が歪んだ。

見て、打っているはずなのに手に掠って通り過ぎるボール。
合わない距離。
見えない向こう側。

自分の手がボールを打ち損ねるなど、ありえなかった。
信じたくもなかった。


調子が悪いとかそーゆー問題じゃない。

ただ単に、できなかった。


いつもできていることができない。

恐ろしいことだ。




この事実におれは畏怖し、逃げた。



今のおれには、


逃げたおれには、

あの場所に戻る資格も
不確定なことに挑戦する勇気も


もっていない。

3歩目→←1歩目

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す