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ある日、私はいつものように腕を引かれてレッスン場に向かっていた。もはや抵抗する気力もなく、頭の中は明日の仕事のことだけでいっぱい。自力で一人暮らしをしていた私は、心身ともに限界に近かった。
気づいた時には病室にいて、まだ赤く手形が着いたままの右腕に点滴が刺さっていた。あぁ、倒れたんだ、とすぐにわかった。こういう時はナースコールだっけ、ともぞもぞ体を動かせば、左側から重みを感じる。慌ててそっちを見ると、そこには妹がいた。
「ぁ、」
「、んん、…あれ、……お姉ちゃん！！」
「んぐぇ」
首元をがっちりホールドして離さない可愛い妹。数ヶ月ぶりに会ったのが病室でだなんて、最悪の再会だ。
「お姉ちゃん！なんで言ってくれなかったの！」
「、ごめん、でも――」
「
え？
私、Kに言ったことあったっけ。いじめられてること。
この時の私の頭の中には、今までのKの表の顔がフラッシュバックしていた。
衣装さんに腕の赤みがバレた時、彼は私の肌が弱いからだ、と誤魔化した。
メイクさんに頬の痩けや隈を指摘された時、食わず嫌いと夜更かしのせいだ、と私のせいにした。
過酷なレッスンによる筋肉痛と喉の痛みで演技が上手くいかなかった時、誤魔化していた才能のなさが露呈したな、と二人きりになった途端に貶してきた。
他人の目に映るKは敏腕マネージャーで、私は運だけでのし上がってきた出来損ない。
ああ、そんなに辞めて欲しいなら辞めてやろうか。演技もお前がやらせていたダンスも歌も、何もかも。子どもだと信じて私利私欲のための玩具として扱っていたんだから、言うことを聞くやつなら誰だっていいんでしょ。
お前の前任はアイドルだったってこと、知ってるよ。輝かしい彼女達の甘い蜜がさぞかし美味しかったんでしょう？ お前のことを大衆の面前で褒める度、愉快で愉悦で誇らしい気持ちになったんでしょう？
でもKは知らないでしょ。人の心って意図も容易く使い物にならなくなるってこと。きっと過去の笑い話になるから何をやってもいいと思っているんだろうけど、そんなことあるわけない。今の栄光より過去の傷。心を握るのは上手だったけどそのまま壊してしまったら意味が無いんだよ。
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作者名：風呂 | 作成日時：2023年1月18日 21時
