あっ、渡辺です。⑤ (ページ15)

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　私が最初にアンナを疑ったのは、カッター事件の翌朝に彼女がいつも通り(・・・・・)二番目にやってきたとき。そう、彼女はいつも私の後にやってくる。
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　なのに、あの日の朝は彼女が一番早く(・・・・)来ていた。
　それもあの日だけ。置きっぱなしにしていたレッスンシューズに小細工ができるのは、私より早くに来た人間にしか不可能ってことは彼女がよく理解しているはずだ。
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　そしてその帰りは誰よりも早く帰ったアンナ。疲れていたから早く帰ったと言っていたけど、血が見たくないから早く帰ったんじゃないだろうか。血が極端に苦手で、その日私が出血することを知っていたあなたは足早に帰宅した。私にはそう見えてしまう。
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　台本すり替え事件の日。私とアンナは二人で購買に来ていた。そこで私は優柔不断っぷりを見せつけ、アンナはひと足早く先に(・・)戻っている。もちろん、購買に行く前に台本がちゃんとカバンに入っていることは確認していたし、中身も確認してあった。だから台本が入れ替わるのは私が購買に行っている間に起きたこと。状況的に怪しくなるのはアンナしかいないのだ。
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　だって、彼女だけが私の台本がどこに入っているのかを知っているから。
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　私はいつも大事なものをカバンの底にあるシークレットスペースに入れていて、台本も同じところにある。私が台本を取りだしている姿は朝早くに来ているアンナしか見ていはずで、彼女しか台本の在処を知らないのだ。
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　それに、Kの言っていた言葉。アンナは私が台本をまるまる覚えているなんて、どうやって気づいたのだろうか。
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　台詞と本筋の流れを思い出すのに台本から目を離せずにいて、あたかものめり込むように台本を見つめているようにしか見えなかったはずだ。その証拠に、誰にもあの事件のことは気づかれていない。その上、稽古場での練習も自分の台詞しかやってない。それじゃあどこであなたはそのことに気がついたんだろう。
　自宅練習の光景でも盗み見ていたの？それとも、台本をすり替えた犯人だから？
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