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「あ？ なんだ、どうした」
「先生に呼ばれている、と友人が教えてくれましたので、」
「……あぁ、ボイステストをしようと思ったんだが、お前が午後からって言うのを忘れてたんだ、だからもう用はない」
「…なるほど、了解しました」
コイツが私にだけしてくる抜き打ち試験。先日はダンスで今日は歌のつもりだったのか。今日だけは運が味方をしてくれたみたいだ。
去り際にもう一度声をかけられたけど、やっぱりなんでもない、と。何だか今日のアイツは変だ。やけに大人しい気がする。風邪でも引いたのだろうか、と思ったけどバカは風邪を引いたことにさえ気づかないと聞くから、どっちにしろざまあみろと心の中で悪態をついておいた。購買で酒を買い込むから体調を崩すんだよ。あ、でもアイツってお酒弱いんだっけ。
稽古場に戻るとそろそろ昼休憩が終わりの時間。気を引きしめるために水筒をガブッと飲むと、ひんやりとした感覚が喉の中を伝った。あれ、まだ常温になってなかったのかな。ほのかに喉が引き締まる感覚もする。
「Aー、みんなで合わせようだって〜」
「あっ、うん、ちょっと待ってー」
眠気覚ましにミントのタブレットを噛み砕いて、台本片手に輪の中に駆け足で向かう。
「あれ、なんかA顔赤いね？ 」
「そう？ さっきちょっと走って暑くなったからかも」
「ふーん、そっか、じゃ始めよ」
練習に熱中しすぎて飲み物を飲むのを忘れていた。少しぬるくするために外に出しておいた水筒をとってがぶがぶと飲む。すっかり常温になったけど、喉がキュッとなる感覚は治らない。なんだろう、風邪かなぁ。Kの風邪がうつったとか？ おいおい、勘弁してくれよ。
「ねぇ、やっぱりなんかおかしくない？ 」
「え、さっきから何？ アンナ、」
「ちょっとその水筒貸して」
ゴクゴクゴク。
関節キスとか気にしないのか。まあこっちの人ってフレンドリーだからな。私だったら嫌だけど。
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作者名：風呂 | 作成日時：2023年1月18日 21時
