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「それから空き時間に、たまーに話をするようになった」
「え、それで？ 」
「んふふ、なにがあの人のお気に召したんだろうね」
ほとんど釣りの話。
自分が芸術大学に通ってるって話したらそっち系の話もするようになったけど。
大野くんがぼそぼそ話すのを、零さないように私が拾って。私がハキハキ話すのは垂れ流し。
「演技もやりやすくなったし、なにより現実のことを考えなくてよかったから、現場に行くのがすっごく楽しみだった」
その半年後には映画化もされて、それはそれは仲が深まったんじゃないかって自分は思ってる。
大学を辞めても私が壊れなかったのは大野くんの存在があったからと言っても過言じゃない。
だけど、
「連絡先は交換してない、お互いのためにね。だからあれ以来交流は無いよ」
「……はぁ」
「なに」
「今ならさっきまでのAの気持ちがよく分かる」
「はい？ 」
ビールをがぶがぶ呑む酒豪。
「嵐さんの曲の振りを覚えて、大野くんにちょこちょこダメ出しされるのが一番楽しかった」
やっぱりあの人はアイドルで、嵐。
「松本さんと共演したときに、大野くんの近況を聴いたの」
「うん」
「たまに私の話をするんだって、…おかしい話」
言葉で形容できなかったあの関係。
友達でも、想い人でも、全く違う。
そんなおとぎ話みたいでパッとしない話を12年経っても覚えてたなんて、よく分からない人。
「アイドルって面白いね」
「何」
「急に素っ気ないじゃん」
「一ヶ月は引きずりそう」
「失恋でもしたの？ 」
「…………はぁ、」
あーあ！！ どうにも昨日の本が頭から離れない。
この虚しさを紛らわせようと涼太くんを飲みに誘ったものの、ちーっとも紛れてくれないの。
だからやっぱり最後はさ、――
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作者名：風呂 | 作成日時：2023年1月29日 15時
