・ ページ16
Aちゃんは感情が分かりにくいとよくいわれてるみたいだけど、彼女はやっぱり翔太の姉。全ては彼女の目が表してくれる。そんな馬鹿正直なAちゃんの目はずーっとハンバーグの方に向けられていて、俺と会話をしているとは思えないくらいだった。
動揺すれば一点を見つめ、怒りを感じれば目尻を垂らす。彼女の目は感情と正反対に動いてしまうみたいだ。
「そっか、……あとで余った材料使ってもいい？」
「余った材料？どうして？」
「試してみたいレシピがあるんだ」
これは嘘。
本当は、どうせろくに食べてないAちゃんのために作り置きを作るため。二日に一回くらいしか食べていなかった頃に俺がご飯を作ってあげていた名残で、子ども舌のAちゃん用レシピは今もまだ頭に残ってる。
「余ったやつは好きにしていいよ」
「ありがとう」
「ただ、二人には内緒にして欲しい」
「うん、わかったよ」
嘘つき同士、お互いチンケな嘘には騙されない。
・
・
・
・
四人並んで眠るのなんていつぶりなのか。帆乃とAちゃんが二人で眠りこけているのはよく見ていたけど、こうしてみんなで眠るのは滅多にない。いい大人が、とは思うけど、昨日はまた別だ。あんなにセンチメンタルになったのは久しぶりだった。
「さむ……」
ぬくぬくの布団からゆっくり抜け出す。三者三様の寝相で爆睡しているのを起こしてしまわないように、そっと。
「余ったやつ、は……」
リビングで寝ているからいつもよりは静かな調理。寝室で寝た方が良かったかも、なんて今更後悔したけど、三人ともお酒が入っていることを思い出した。ちょっとやそっとの物音じゃ起きやしないだろう。
トントントン。グツグツグツ。
食の細いAちゃんにはスープ系の相性がすごくいい。食欲がなくても栄養が取れるし、よく煮込んでおけば野菜の味も食感もわかりにくくなる。何より味のレパートリーが豊富で何を入れても美味しくなるのが嬉しい。
愛情たっぷりの手料理を見習って、今回はスープの種類を増やしてみる。母親の温もりのように疲れた心がじゅわりと溶け出していくあの感覚が、すごくすごく幸せで、Aちゃんの良さが全面に出ている手料理。優しい味で、誰もが美味しいと頬を抑えてしまうような、そんな感じ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 612人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：風呂 | 作成日時：2023年1月29日 15時
