灼熱の太陽。 (ページ10)

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「……に帰らないと。私…」

まだまだやる事はある。
いくらこの時代に杏寿郎さんが居ても。
この時代の居心地が良くても。

私は先の時代の人間で。

「私の時代に、私の居場所はあって……えっと私には家族が居て、友達が居て…」

記憶があやふやになっていき、上手く言葉にならなくなる。黙り込む私を見て、杏寿郎さんは静かに目を細め、抱き寄せた。

「あれ？あれ……どうして？どうして？」

家族の名前、友達の名前が思い出せない。
辛うじて顔は思い出せるのに。

「早く帰らないと……杏寿郎さん」

顔を上げて杏寿郎さんを見る。
杏寿郎さんは眉を下げて、口を開いた。

「Aには酷だから黙っていようと思っていたが、ここに来た時、以前も言った通り君は何も持たずに倒れていたんだ。道具も何も無く、手がかりも全くない。不可能に近い」

「嘘、うそ……そんな……」

私は杏寿郎さんの胸板を押して、離れて急いで草履を履いて走り出した。

「はぁっ、はぁっ、はぁ」

必死に当たりを見渡す。
忘れるな、忘れては行けない！！！
元の時代に戻らないと、何がなんでも、試して────

トンネル、トンネルを探そう。次は井戸、そして───

＊

あれ私、、なんで───

「あれ…？なんでこんなに走ってるの？」

走るのをやめて立ち止まる。

「うーん……」

考え込んでいると、後ろから腕を掴まれる。

「A！！」

彼の顔を見て、私は笑みが溢れる。

「杏寿郎！」

私がそう呼ぶと彼は目を見開き、驚く。

「え、どうしたの？」
「Aっ、A！！戻ってきたか！！！」

杏寿郎は私を強く抱き締めた。
─── 戻ってきた？
よく分からないが、杏寿郎があまりにも嬉しそうなので、私も抱き締め返した。

「A、今日はさつまいもの炊き込みご飯と、天ぷら、あとはそうだなぁ……」

まだ昼時なのに、夕食の話をしだす杏寿郎。

「はいはい、分かりました。あぁそういえば、最近槇寿郎さんと千寿郎さんにお会いしてないから、会いに行かないと」
「はは、君が来たらきっと喜ぶ。だが、今日は俺と君だけの時間だ」

杏寿郎はそう言って私の手を握って煉獄家の方向から離れていく。

「まぁ！本当に杏寿郎どうしたの？いつもと違うね」
「そうか？Aは何も変わっていない。俺が好きなAのままだ」

彼の顔は本当に幸せそうで、泣きそうで。
なぜか抱きしめたくなった。