ifひゃくさんじゅう・分岐(記憶)* ページ18
彼の背中を撫で、優しく抱きしめれば、杏寿郎さんは顔を上げた。
「A、忘れ…『〜♪ お風呂が沸きました』
杏寿郎さんがネクタイを緩め、ワイシャツのボタンを外そうとした時、タイミングよくお風呂が沸いたことを伝える音楽が鳴った。
「杏寿郎さん、ちょうどシャツ脱ごうとしてるし、今日はお風呂一人で行っ……」
「Aも一緒に決まっているだろう?こら、逃げるんじゃない」
ガッシリと腕を掴まれ、立ち上がらされたので、二人で脱衣所に向かう。
そして服を脱いでいると、杏寿郎さんが背後からしれっとお腹の傷に触れてくる。
「A、腹の傷はまだ残っているな……」
「以外と消えないね。でも今も痛むわけではないし、気にしてないよ」
「そうか…」
そう言ってさわさわ私のお腹を撫で、静かに首筋に口付けながら、密着してくるので、笑いながら杏寿郎さんの手を掴んで止める。
「ん、くすぐったいっ。ちょっ、お風呂入れないから、杏寿郎さん」
「A、あの女性への恐怖を消して欲しい」
「……あぁっ、もう……そう言われたら私が断れないの分かってるでしょう…?…」
私は制止の手をゆっくり離して、振り返って杏寿郎さんを見上げ、私は杏寿郎さんにそのまま溶けていくように長く甘い時間を過ごしたのだった。
***
「……あぁ熱い……のぼせた、かも」
「ふふ、まだ顔が赤いなぁ」
だらりとソファに倒れていると杏寿郎さんの手が私の頬に触れて、冷たくて、顔を顰める。
杏寿郎さんは水の入ったコップを持っていたため、冷たかったのだ。
「水飲むか?」
「うん、少し飲もうかな」
コップを受け取り、水を飲む。ひんやりして心地よかった。そしてコップを近くのテーブルにおいて、またソファに倒れ込む。
杏寿郎さんを見ると、彼は満足そうに私を見つめていた。
今日の杏寿郎さんは落ち込んでいたから、少し、気分が良くなっただろうか。
「杏寿郎さん、顔よく見せて?」
私が腕を伸ばすと、杏寿郎さんは素直に私の傍に来て、顔を近づけた。
彼の顔を両手で包み込んだ。
相変わらず、整った顔。
そして、隈もなく、穏やかな表情。
「大丈夫?杏寿郎さん」
「あぁ、今は気分がいい」
「私の前では強がらないで欲しいの…お願い…」
杏寿郎さんは静かに何度も頷くので、私はゆっくり手を離す。
「大丈夫だ、A。君には隠せないから」
杏寿郎さんはそう言って、私の頭を撫でた。
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