灼熱の太陽。 (ページ16)

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ifひゃくにじゅうはち・分岐(記憶) ページ16

「おはよう、杏寿郎さん」

杏寿郎さんの頭を撫でながら言えば、彼はゆっくり目を開ける。
そして、私の手を探していたようで、私の指先に触れた瞬間、強く掴まれた。

「おはよう。A」
「朝食を作りましょうか？杏寿郎さんの好きな、さつまいもの味噌汁」

杏寿郎さんは静かに私を見つめたあと、少し試すように顔を寄せる。彼はまだ私を『私』であるのか、試しているようだった。
私は迷わず彼を引き寄せて、抱きしめた。

「試しているの？私はもう杏寿郎さんを独りにしない」
「逃げることもしないのか？Aは既にこの家に気づいているだろう？君はもうここから出ることは出来ない」

彼は淡々とそう言い、私の瞳の奥の動揺を探っていた。

だけど、私には効かないよ、杏寿郎さん。

「ふふ、それぐらいで動揺なんて…。むしろ私を必要としてくれているのが嬉しい」

杏寿郎さんの額を撫でて、笑う。
彼がたまらなく愛おしい。

「…久しぶりにAの朝食が食べたい」

杏寿郎さんは私の両手を包み込む。
そして彼は目を細め、柔らかな笑顔を浮かべている。

「A、今世では君は俺の隣で幸せになって欲しい」
「うん、私を見つけて、愛してくれてありがとう」

＊＊＊

数ヶ月後、私はこの生活を不便だとは感じていない。
息苦しさもない。
これは彼の愛だから。そしてここが彼の唯一の安らげる場所だから。

仕事も交友関係も全て整理された。
そして彼の不安要素を1つずつ無くしていった。

「A、ただいま戻った」
「おかえり、杏寿郎さん」

腕を広げると、杏寿郎さんはすぐに嬉しそうな表情になり、鞄を置いて勢いよく私を抱きしめてくれる。

「杏寿郎さん、今日は少し甘い香りしない？
手を洗ってきて？私は夕食の準備をするね」
「あぁ、この匂いか ──後で話す」

杏寿郎さんの帰ってきた声の調子から何となく想像はついていたけど。
彼は顔が良いし、正直体格もガッシリとしていて、女性に好かれる。モテる男は大変である。

「よし、落ち込んでたから、今日はさつまいも多めに入れといてあげよう！」

お皿にたっぷりゴロゴロしたさつまいもを入れる。
そしてテーブルに料理を並べていると、手を洗い終わった杏寿郎さんが目を輝かせた。

「今日はさつまいも煮があるのか！！」
「喜んでくれて良かったぁ、じゃ、食べよう？」

向かい合った席にそれぞれ座った。
そして、夕食の時間が始まった。