君がくれた夏 (yb×in) (ページ8)

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「お祭り？」

「そう、今週末にあるの。学校裏の神社でね」

へえ、と興味があるのかないのかよく分からない相槌をうつ。

珍しく陽射しの弱い日だった。

「あの神社でねぇ」

「規模はちっちゃいけど、結構歴史あるんだよ？」

その次の日、薮は何事もなかったように学校に来た。
どうしたの？とは聞けなかった俺を見透かしたように、"ちょっと腹壊した"と笑う。

アイスを食べすぎたんだって、自他ともに認める俺のお腹の弱さといい勝負だと思った。

「伊野尾は行きたい？」

「まあ、毎年行ってるし」

大ちゃんは部活仲間で行くからごめんね、と言っていた。
中学に上がった時から毎年その言葉を聞いていたから、特に気にせず、いいよと答えた。

だから本当は、人混みで熱の篭った神社なんかに行かずに、クーラーの効いた涼しい自分の部屋で漫画を読み漁ってやるつもりだった。

「じゃあ、俺も行こうかな」

薮の手元には、変わらず問題集が広げられていた。
少し汗ばんだ手が、じわりと染みを作った。
お世辞にも上手いとは言えない字がぼんやりと滲む。

もう上手く読めない。

薮みたいだ、と思った。

「それなら、土曜日の6時に校門前ね」

俺は、大ちゃん以外に一緒にお祭りにいくような友達はいない。

「ふふ、楽しみにしてる」

指切り、とでも言うかのように薮が小指をたてる。

小さな嘘に、チリと心が痛む。

あの空間に足を踏み入れるのは、実に5年ぶりのことだった。

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