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そうやって大半を薄暗い教室で2人で過ごし、時に真面目に授業を受け、たまーに薮があんな風に学校を抜け出してボールを蹴りたいと言い出す。
変わっているようで、何の変哲もない日々を過ごすようになって1ヶ月が経った。
JULYとデカデカと印刷されたカレンダーは、ほとんど使われないこの教室にも例外なく飾ってあった。
「もう7月か」
くるくると器用にシャーペンを回しながら薮が呟く。
その手元には、何やらごちゃごちゃと問題が書かれた手作りの冊子があった。
あまりにも授業に出席しない薮にカンカンだった担任が手渡したものだ。
転校生だから、と甘く見られていたのも最初のうちだけらしい。
「これ以上暑くなるの嫌だなあ、俺」
それでも性懲りも無く授業を抜け出していたから、俺も何も言わずにそれに付き合った。
いや別に、付き合う必要も無いし、付き合ってくれなんて本人から言われたことは1度もないけれど。
初めてここで会ったあの時、心臓をつき動かしたあの感情の答えを知るために、あの時の気持ちをころころと転がしながら俺は薮の傍で他愛のない話をして過ごすのだ。
「はは、伊野尾溶けちゃうもんな」
問題集を閉じた薮は、くるりとこちらに体を向ける。
貧弱だと小馬鹿にされたようで気に食わない。
ムッとして睨みつけると、薮は面白そうに笑った。
「もう、笑うな!」
素で笑うと目が無くなることに気づいてからは、薮の愛想笑いを見抜けるようになった。
「ふふ、可愛くて、つい」
「うるせー!貧弱で悪かったな!」
薮の手が、ギリギリ整容検査に引っかかりそうなくらいに伸びた俺の髪の毛を捉える。
元より女みたいだなんだと言われてきた俺だ、笑いたきゃ笑えばいい。
「あ、拗ねた?」
「んなわけないだろ」
「あ、でも、」
ふ、と薮はそこで口を噤む。
その手に触れられた部分が熱くて火傷してしまいそうだ。
「……可愛いと思うよ、俺は」
「な、っ……」
「チワワみたいで」
「チワ、っ!?」
もうここまでくると漫才だ。
可愛い、と言われて不覚にもドキリとしてしまった俺の動揺を返して欲しい。
「あんなキャンキャン手のかかる生き物と一緒にすんな!」
その間もふわふわといじられる髪の毛と同じくらいには、きっと俺も弄ばれているのだ。
" ほらやっぱりそっくりだ "
がっくり項垂れたその上から、楽しそうに笑う薮の声が聞こえた
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