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第三十九話 ページ41

降谷くんに、お前を渡す気はないーー。

秀一さんは、そう言って挑発的に笑った。
「それって・・・私は秀一さんの手の中にあるってこと?」
「いや、そうじゃない。
彼には渡さない、そのままの意味だよ」
それはそれでーー少し悲しい。


求めて欲しいと思ってしまう自分がどこかにいる。
「秀一さん・・・私、どうしたらいい?
彼のこともあなたのことも本当に好きなの・・・」
「どうするべきなんだろうな、俺にもわからない。
お前に口出しできる権利は、俺にはないからな」
秀一さんは、私から距離を置いて、向こうを見ている。
その態度でわかった。

秀一さんも、苦しんでいる。
裏切ってしまったという罪悪感に、苛まれている・・・。


「あなたは彼に渡さない、なんていうけれど。
私は誰か一人を選ぶよ、いつかは。その時・・・。
その時、あなたも選択肢に入れていいの?」
「・・・お前、まだ俺のことを好いているのか」
「当たり前じゃない・・・!」
秀一さんは、こちらをチラっと見て、力なく口角を上げた。
「俺はまだ、昔と同じようにお前に接することはできないぞ」
「いい。私たちは昔とは違うんだから・・・」
だが、と秀一さんは、こちらに腕を伸ばした。

「・・・今日だけは、全てを忘れてみてもいいか」
秀一さんは、私の頭をそっと引き寄せ、口付けをした。
その瞬間、遠く昔の色々な記憶が蘇る。
この人が死んでいたと思っていた頃が、夢の出来事のように感じられて。
何にも、変わっていないんじゃないかって思えてきて。


ずっと、秀一さんも悲しそうな顔をしていた。
私を抱きしめる腕は変わらなかったけれど、昔のように、壊れてしまいそうになるくらいに力を込めることはしない。
「お前は変わらないな。少しばかり美しくなった気はするが」
「あなたはやつれたね。それに痩せた気がする」
秀一さんの腕の中。
二人で横になって、昔話をしていた。
「アメリカにいた頃は、何も考えず生きていたからな。
大人になると、色々と悩ましいことが多い」
「本当に。あなたを追いかけて留学して・・・
アメリカではいろんなことをしたね」
とっても、楽しかった。
あの日々が、ずっと続けばよかったのに・・・。

秀一さんは私の髪を撫で、くるくると弄んだ。
そうするのが、秀一さんの癖。
ふと、降谷さんもよく私の頭を撫でて微笑んでいたことを思い出し、胸が苦しくなる。

・・・彼にもちゃんと、話さないと。

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(プロフ) - iwaさん» コメントありがとうございます!いえ、私自身どちらか一人を選ぶとすると話の収集がつけられなくなってしまうため、もう一人はもう一つのストーリーで幸せになってもらうことにしました笑 今テスト期間のため、再来週くらいになったら更新再開します! (2019年7月10日 20時) (レス) id: 016d1e72e6 (このIDを非表示/違反報告)
iwa(プロフ) - どちらもありのエンディング贅沢すぎて嬉しいです。お手を煩わせてしまって読み手として申し訳ないですが、たのしみにしています。 (2019年7月10日 20時) (レス) id: d46b647962 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 亞里亞さん» ありがとうございます!それぞれのエンディングは今悩み中です! ただ幸せになって終わるだけじゃないかもしれないですが、楽しみにしていてくださると嬉しいです! (2019年7月7日 19時) (レス) id: 8f4e5bf045 (このIDを非表示/違反報告)
亞里亞 - お疲れ様です!!赤井さんも降谷さんも大人なので最終的には幸せを願って身を引けるんだろうななんて今から泣ける準備してますね!! (2019年7月7日 15時) (レス) id: 6308b08dc9 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 優愛さん» ありがとうございます!! 最近更新遅くて申し訳ないですが、ゆっくり頑張ります! (2019年6月13日 21時) (レス) id: 8f4e5bf045 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年5月24日 0時

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