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第三話 ページ5

夜。寝支度を整えて、私はベッドに寝転がった。
はあ・・・。
変わらない毎日。だけど、前とは違う毎日。

寝返りを打つと、ベランダに干しておいた、さっきの雨傘が見えた。


さっきの人。強制的に店に来させようとしてあんな親切したとしたら相当な強者だ。
あの人とおんなじだ、わざと出会うきっかけを作って、取り込んで行った・・・。



『組織の人間と上手く繋がれたよ。これで仕事を始められる』
『よかったね。でも、危なくないの?』

あの人のお家。夜、立って窓の外を見ていたあの人に、私はコーヒーを入れてあげていた。
ことん、とテーブルにコップを置き、私はあの人の後ろに立つ。

『聞いてほしい。しばらくお前には合わない』
『・・・それって、私を危険に巻き込みたくないから?』
あの人は、窓の外を見つめたまま。

あまり多くを語る人じゃなかった。特に、都合の悪いことは。
私はうつむいて、彼の袖を掴んだ。

『お仕事の邪魔をすることはしたくない。でも、秀一さんに危ない目にあって欲しくない』
『相変わらずわがままだな』
彼の指が、そっと私の手をつつく。私は、ハッと息を止めた。
いやだ、離れたくない。この人は、自ら危険へと突き進んでいる。

『お願い秀一さん・・・』
私がつぶやくと、やっとあの人はこっちを向いて、私の言葉を待った。
私は、その広い胸にしなだれかかった。
『死なないで、絶対に・・・私、あなたがいなきゃ生きていけない。あなたが死ぬときは、私も死ぬときよ・・・』
涙がにじんでいた。私は、きっとわかっていたんだ。


あの人を待ち受ける運命のこと。
もっと、必死に止めていたら?
そんなこと考えたってもう叶わない。


あの人は、ふうっと小さく息をつくと、私を抱きしめた。
『それは困るな。なおさら死ぬわけにはいかない』
私は、あの人を見上げた。思いがけず、彼の顔がわずかにゆがんでいた。
珍しかった、あんな風に悲しい顔をしてるのは。


おもむろに、あの人は私に口づけをした。
いつもは軽く済ませてしまうのに、あの日は、この世の果てまでも届くくらい深く、深い口づけだった。
ずっとああしていられたら・・・。



・・・はっと気づいて我に帰る。
ちょっと恥ずかしいことを思い出してしまって顔が赤くなる。
もう、なんであのことを思い出したんだろ。

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(プロフ) - iwaさん» コメントありがとうございます!いえ、私自身どちらか一人を選ぶとすると話の収集がつけられなくなってしまうため、もう一人はもう一つのストーリーで幸せになってもらうことにしました笑 今テスト期間のため、再来週くらいになったら更新再開します! (2019年7月10日 20時) (レス) id: 016d1e72e6 (このIDを非表示/違反報告)
iwa(プロフ) - どちらもありのエンディング贅沢すぎて嬉しいです。お手を煩わせてしまって読み手として申し訳ないですが、たのしみにしています。 (2019年7月10日 20時) (レス) id: d46b647962 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 亞里亞さん» ありがとうございます!それぞれのエンディングは今悩み中です! ただ幸せになって終わるだけじゃないかもしれないですが、楽しみにしていてくださると嬉しいです! (2019年7月7日 19時) (レス) id: 8f4e5bf045 (このIDを非表示/違反報告)
亞里亞 - お疲れ様です!!赤井さんも降谷さんも大人なので最終的には幸せを願って身を引けるんだろうななんて今から泣ける準備してますね!! (2019年7月7日 15時) (レス) id: 6308b08dc9 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 優愛さん» ありがとうございます!! 最近更新遅くて申し訳ないですが、ゆっくり頑張ります! (2019年6月13日 21時) (レス) id: 8f4e5bf045 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年5月24日 0時

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