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第二十四話 ページ26

私たちは、草原を抜け、深い森を散策する。
どこかから小鳥の声が聞こえて、木々の揺れる音が沈黙を埋める。
「いいね、こういう緑って。ほっとする」
「僕たちの街に、あまり自然はありませんからね」
安室さんは、垂れ下がった木の枝にそっと手を添えた。
「つぼみがあります」
じっくりと眺める安室さん。なんだか、警察が証拠をよく見てるみたいで面白い。


「安室さんて、帰ってくるのがいつも遅いよね。ずっと仕事なの?」
「まあ。勤務時間外も色々と予定が詰まっているもので」
「私、何かお手伝いできることある?」
そんな言葉が、口をついて出た。
なんだか、時折彼が見せるやつれたような表情が、気になっていたから。

「優しいんですね、あなたは」
「送り迎えだって、朝食だって作ってくれてるんだもの・・・少しくらい、何かしたいと思って」
「そうですね・・・」
安室さんは、考え込むように顎に手を持って行く。
そして、悲しそうにふっと微笑んだ。
「僕があなたに求めること、きっとあなたは受け入れてはくれないでしょうね」
「何? 大学に行くな、とか?」
「そんなことじゃない」
安室さんは、そっと私の肩を抱いて、引き寄せた。
な、何!?

そして私の髪に口付けをした。
「こういうことですよ」
「それって・・・」
「けれど、あなたにそんなことは求められません・・・なぜかは、わかりますね」
あの人が、いるから・・・。

「・・・ごめん、なさい・・・」
あの人がいなくなってしまって、こんな早くに新しい人と一緒になるなんて。
そんなの、ダメだよね。
だって私は、心からあの人を愛していたんですもの。
時間がまだ私を許してくれない。
いつかはきっと、あの人のこと、楽しかった思い出にできるかもしれないけれど。
・・・でもそれは、今ではないの、きっと。

「君は、未来を見てはくれないのかーー? 僕は今、君を愛しているんだよ」
「・・・安室さん」
「君のことを決して一人にはさせない。放ってなんかおかない。
必ず君だけを愛するーー何よりも」
そんなことを言われたら。
涙が、自然と溢れ出してしまった。

「わかってる。こんなことを言うと余計に傷つけるだけだと」
だけど、と言う安室さん。
「Aを、ずっと悲しみの中にいさせたくはない」
「ーーわかってる、嘆いたって意味がないって・・・でも、いいのかわからないの。
あの人を裏切ることにならないか、って・・・」
安室さんはそっと私の頭を撫でた。


「君のあの男への想いは、嘘ではないよ、絶対に。でも愛は一つしかないわけではないんだーー」

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(プロフ) - iwaさん» コメントありがとうございます!いえ、私自身どちらか一人を選ぶとすると話の収集がつけられなくなってしまうため、もう一人はもう一つのストーリーで幸せになってもらうことにしました笑 今テスト期間のため、再来週くらいになったら更新再開します! (2019年7月10日 20時) (レス) id: 016d1e72e6 (このIDを非表示/違反報告)
iwa(プロフ) - どちらもありのエンディング贅沢すぎて嬉しいです。お手を煩わせてしまって読み手として申し訳ないですが、たのしみにしています。 (2019年7月10日 20時) (レス) id: d46b647962 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 亞里亞さん» ありがとうございます!それぞれのエンディングは今悩み中です! ただ幸せになって終わるだけじゃないかもしれないですが、楽しみにしていてくださると嬉しいです! (2019年7月7日 19時) (レス) id: 8f4e5bf045 (このIDを非表示/違反報告)
亞里亞 - お疲れ様です!!赤井さんも降谷さんも大人なので最終的には幸せを願って身を引けるんだろうななんて今から泣ける準備してますね!! (2019年7月7日 15時) (レス) id: 6308b08dc9 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 優愛さん» ありがとうございます!! 最近更新遅くて申し訳ないですが、ゆっくり頑張ります! (2019年6月13日 21時) (レス) id: 8f4e5bf045 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年5月24日 0時

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