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先輩が右手でそのまま首を撫でながら、子どもに言い聞かせるような口調で話す。
「このまま絞めたらどうなるんだろうね?稚魚ちゃんの細い首をギュッてしたらぁ…。アハッ!考えただけで興奮してきちゃったぁ。」
よほど興奮したのか、首への力が強くなる。
「し…絞めな…いで…くださ…。」
このままでは力が強くなる一方だと感じた私は、残された気力で必死に声をしぼり出す。
それがまた先輩を煽ってしまう。
「俺にしか頼れない稚魚ちゃんホントにかわいーね。でも大丈夫。首は絞めねーよ?だからさぁ…。」
「ちゅーしていいよね?」
意味が分からない。どうして絞めないかわりにキスをしなければならないのだろうか。それに、先輩から見て私は男だ。それを伝えようと頑張って否定する。
「私…は男…です…。それに…相手を…好き…じゃないと…するもの…じゃ…ありません…。」
人間と人魚では価値観が大分違うだろうが、「好き同士でしかしてはいけない」という当たり前のことを言う。これならどの種族にだって通じるだろうし、納得もしてくれるはずだ。
「じゃあ大丈夫じゃん。俺、稚魚ちゃんのこと好きだよ?」
衝撃の言葉が返ってきた。頭が真っ白になる。だが、フロイド先輩が言う好きは友人に向けるものと同じだとすぐに思いつく。
「それ…は…違う好き…だと…思います…。」
「は?なに?俺が間違ってるって言いたいの?」
不満そうな顔で先輩が詰め寄る。
一生懸命伝えるが、逆に先輩を怒らせてしまいどうしようと困惑する。
「それに、稚魚ちゃんが女の子って俺知ってるよ。」
先輩が私を座っていたはずのソファーに押し倒し、いわゆる床ドンという姿勢になる。先輩の両手が私の首になかったら、もっと魅力的なものになっていただろう。
「ち…違います…。私は…男で…。」
女と知られればどうなるか分からない。彼の言葉を否定し、体を捩るが私の力なんかでどうにかできる相手ではない。
「男がこんなに柔らかいわけねーじゃん。」
私の首を持っていた筈の先輩の左手は、私の太ももを撫でる。抵抗するが耳元で動くな、と脅される。
助けを呼ぼうにもここは奥の席で周りからは見えない。全てが仕組まれていたことに気づく。
「女だってバレたくないでしょ?」
的確に弱みをにぎる質問。最初から彼は全部分かっていたのだ。だからあえて邪魔されないここに私を呼び出した。
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作者名:りん | 作成日時:2021年7月25日 16時