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「走って出て行ったのが見えて、探した…」
「…」
「もうすぐ雨降るから、帰ろう？」
ふるふると首を横に振る私に秀一が近づく。
伸ばされた手が頭に触れて、思わずビクッと反応してしまった。
「…どうした？」
心配そうな声が聞こえて、何でもない、と声に出すのが精一杯だった。
男は、と言う父の声が頭に反響する。
違う、違う！秀一はそんなことしない！
掻き消したくてまた耳を塞いだ。目もぎゅっと瞑った。
隣に座った秀一がそっと私の手に触れて、落ち着かせるように背中を撫でてくれる。
「A、帰ろ？」
「っ、やだ、」
「…雨降るぞ」
「いいっ…」
帰りたくないの、と懇願するように呟けばハァと溜息が聞こえる。
そりゃそうだ。秀一からしてみれば、駄々をこねているだけで迷惑でしかないだろう。
置いていかれるのかな。いっそ置いて行ってほしいと思った。
痣が見えないように袖を指で握って、フードも深く被って。
そうして外界からシャットアウトしようとした私に、
「昨日来れなかったし、うち、来るでしょ？帰ろ」
さっきと何も変わらない、優しい声が諭すように降ってきた。
顔をあげれば、眉を下げて心配そうにしている秀一と目があう。
そしてそれは、何も考えずに出た言葉だった。
「…ねえ、今日、泊まってもいい？」
自分で言ったのに、自分で驚いて、秀一にしてもいきなりそんなこと言い出すなんて迷惑だろう思った。
やっぱり何でもない、と訂正しようと口を開けば、「いいよ」と声が聞こえた。
頭を撫でて微笑んでくれた顔を見て、滲んだ涙を隠すように、彼の腕へと縋り付いた。
相変わらず父の声は反響していたけど、でも、父の元へ帰るよりは、秀一がいいと、秀一ならいいと、その優しい手つきにも表情にも、思ってしまった。
ぽつぽつと、地面を濡らしだした雨が、踏み散らかされた桜を溶かし流すように、雨足を強め始めていた。
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ハル - すごく大好きです！更新も無理せずにゆっくりでいいので、楽しみにしてます！ (2019年6月16日 0時) (
レス) id: aceffff8a7 (このIDを非表示/違反報告)
なー(プロフ) - 鶴さん» ありがとうございます!更新は遅いですけど読んでいただけると嬉しいです(^o^) (2019年6月12日 13時) (レス) id: 3cdd23f11d (このIDを非表示/違反報告)
鶴 - すごくはまってしまいました！ 続きも楽しみにしています！ (2019年6月4日 22時) (レス) id: c081e3d2cd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なー | 作成日時：2019年6月2日 21時
