36話 ページ37
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会計を終え店を出た二人は、少しふらついた足取りで帰路についていた。
実は店にくる前降谷が車を停めたのは、安室のほうのセーフハウスの駐車場だった。
バーから近いこともあったが、念のためと彼なりの行動だった。
それにまだ、知らないことばかりのAに色々知られるのはまずい。
そう判断したためだった。
かくいうAは、先程の会計にまだ納得いっていないのか何とも言えない表情を浮かべている。
「まだ気にしてるのか?いいって言っただろう」
『だって、最初から降谷さんが全部払うつもりだったって知ってたら、あんな飲みませんでしたよ私………』
「だろうと思ったから敢えて言わなかったんだよ」
『………すみません』
「謝らなくていい。それに、君が酒豪って一面も知れて楽しかったさ」
『〜〜〜っ、降谷さん!』
意地が悪いですよ!
そう言ってぷりぷり怒るAに、降谷も口角があがる。
こいつ、顔に出なかっただけで酔ってたんだな。
あまり見られない彼女の新たな一面がみれて、純粋に嬉しかった。
裏道を抜け大通りに差し掛かると、降谷はさりげなく車道側へ移動する。
その一連の動作を見ていたAは、思わずぽつりと呟いた。
『イケメンは何してもイケメン………』
「え?」
『あ、いえ…何でもないです』
その呟きは小さかったため彼に聞こえることはなかったが、Aは自分が彼をイケメンと認識していたことに自覚して少し驚いた。
さりげなくする感じがまた無性に腹が立つ。
赤ちゃんになったり、イケメンになったり。
忙しい人だなと頭の隅で思った。
そうこうしているうちに、彼らは見知った道へとたどり着く。
そこはもうAの帰路だった。
『あ、降谷さん…ここまでで大丈夫です』
Aはピタリと足を止め隣の降谷を見る。
「そうか、気をつけて帰れよ」
『はい、今日はご馳走さまでした』
彼女はペコリと一礼すると、降谷に背を向け再び歩き始める。
ふと、その背を見つめていた降谷が、彼女を呼び止めた。
「__濱口!」
名前を呼ばれ、Aは不思議そうに振り返る。
降谷は一度言葉を詰まらせると、彼女を真っ直ぐ見つめた。
ドキ、
その視線で一瞬脈打った心臓に、Aは知らないふりをする。
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W.m(プロフ) - このお話の虜になってしまいました!是非続きをお願いします! (2022年7月22日 1時) (レス) @page38 id: cc284c2617 (このIDを非表示/違反報告)
あいちゃん(プロフ) - びっくりするくらい面白いし続き気になります!!ぜひ更新して欲しいです!! (2022年5月21日 18時) (レス) id: 4f6136cbf2 (このIDを非表示/違反報告)
紅月 - 初コメ失礼します!とっても面白いです。探り合いの雰囲気とか格好いいですし、降谷さんがバーボン飲んでもらって赤ちゃん化するの笑いましたw可愛い! (2020年7月19日 13時) (レス) id: be796dbe9a (このIDを非表示/違反報告)
mリン(プロフ) - 雅2さん» 大丈夫ですちゃんとわかってますので!笑笑 この後の話に繋げてるのでご心配なさらず…!変なところで終わってしまったからですよねすみません…!コメントありがとうございました!! (2020年6月8日 2時) (レス) id: 8a2861dc31 (このIDを非表示/違反報告)
雅2(プロフ) - スピリタスって度数96の純正アルコールですよね?そのまま飲んだりすると大火傷を主人公が負ってしまうのでちゃんと水か何かで薄めて他のアルコールの果実酒として飲むようにしてくださいね笑 (2020年6月7日 22時) (レス) id: 57165b9e01 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mリン | 作成日時:2019年6月22日 17時