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カシャリ。花火を両手に、振り返った時だった。シャッター音が時を止める。
「……やめてよ恥ずかしい」
「そ?俺はそんなことないけど」
「当たり前じゃん……」
片方の手に消えかけた花火を、もう片方の手で私を写したそれをポケットにしまいながら、花巻がゆっくりと近づいてくる。
「な、線香花火、勝負しようぜ」
俺が勝ったら、聞いて欲しいんだけど、と花巻が線香花火を手渡した。向こうではまた及川が岩泉を怒らせている。そんな淡い喧騒も届かないくらいに、妙に静かだ。
いいよ、と返してすぐに2人してしゃがみこむ。火をつけて、数秒。朱色の細い線が花になった。こういうの懐かしいね、と笑いかけようとして、すぐにその視線を線香花火に落とした。
花巻の、固く口を結んだいつになく真面目な顔が頭にこべりついて離れない。まただ。初めてじゃない、この感じ。花巻は最近よくこうなのだ。
つられて私も固くなる。生まれて初めて、こんなにも真剣にあの赤い玉が落ちることを防ごうとしている。息をすることも忘れそうだ。
ぽとり。
しばらくして火の玉が落ちた。
「あ〜〜〜……まじかぁ……」
先に落ちたのは花巻の線香花火だった。隣の花巻は膝に顔を埋める。それなりにショックらしかった。私は彼が何を言いたかったのか、何となくわかってはいるのに、知らないふりをする。高鳴る心臓も、目をつぶる。
「私が勝ったら、どうしたらいいんだっけ」
「……なんか頼みあんなら聞く」
「じゃあ、これからもこうやって遊んで欲しい」
思わず零れた本当の気持ちだった。花巻はそれを聞いて目を丸くしたかと思えば、吹き出した。
「じゃ、次はサイゼ。お前の奢りで」
そう花巻が立ち上がれば、「あー、また2人で何してたのさ」なんて言って3人が海辺から戻ってきた。
「いーや、何にも。な」
「……うん、何にも」
何てことのない、目に見えないくらいに小さな秘密に、心が踊った。
帰り道、花巻が隣を歩いていた。
「楽しかったかよ」
「サイゼよりは」
「馬鹿言え」
波の音が遠ざかっていく。
大男が3人と、花巻と、年甲斐もなくはしゃぐ私たちに、夏が来た。
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依(プロフ) - しおさん» わ、しおさん!!ありがとうございます!!!!!!嬉しいです!!!!!! (2020年5月17日 21時) (レス) id: 1c396819ac (このIDを非表示/違反報告)
しお(プロフ) - コメント失礼しますとてもファンです。いつも素敵なお話をありがとうございます。最高です!!!!! (2020年5月17日 20時) (レス) id: 2d9a1a0004 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:依 | 作成日時:2020年5月17日 20時