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薄暗いワンルームで過ごす彼女との最後の夜。わずかに射し込む月明かりが目の中にきらきらと分散した。組み敷かれた彼女の細くて柔い指が俺のそれに絡まる。彼女の少し伸びた爪がわずかに俺の手の甲にくいこんだ。暖かくて、どこか優しかった。
窓から吹き込んだ風に、彼女の髪がふわりと揺れる。俺は彼女の髪が好きだった。いつでも艶めいていて生を感じさせた彼女の髪が。
窓の近く、布団のそばに腰を下ろす。くしゃくしゃになった布の上でシーツ1枚を身にまとって横になる、まるで昨夜のままな彼女の髪に触れる。無知で真っ黒なあの頃のそれとは違っていたとしても、俺は気付けば癖のようにそうしてしまっているのだった。
肌にじと、とまとわりつくような生ぬるさを風が攫う。彼女が吐き出した薄い煙はすぐに空気に溶けた。
乾いた頬がぴりぴりと痛む。彼女も俺もどこか淡々としていて、昨日の俺が望んでいたようなことにはならなそうだった。
最後に貰った彼女の煙草も、口付けた彼女の唇も、やはり俺には分からない味だった。それでも離れ際に彼女の目を覗いてしまった俺は、キッチンに置かれた吸えもしない煙草の箱をそっとポケットにしまう。じわりと目頭が熱くなった。情けない。
どうして彼女が昨日の夜を許したのか、それでもなおどうして出て行くのか、余計にわからなくなった。
玄関先で彼女を見送る。彼女の頬にそっと触れた手を彼女が掴んだ。
「今までありがとう」
元気でな、と少し無理をして笑った俺に、そう言って小さく笑った彼女の表情も手も優しくて、息を飲んだ。きゅ、と胸が締め付けられるような懐かしい感覚に襲われて、今さら彼女へ抱く気持ちをハッキリと自覚したのだった。
だからってどうすればいいかなんて俺にはわからなくて、ワンルームを後にする彼女の背に手を伸ばしかけて、やめる。
ローテーブルに置かれた、陽の光を反射して小さく輝いている彼女のピアスには、俺はまだ気付かないふりをした。
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依(プロフ) - しおさん» わ、しおさん！！ありがとうございます！！！！！！嬉しいです！！！！！！ (2020年5月17日 21時) (
レス) id: 1c396819ac (このIDを非表示/違反報告)
しお(プロフ) - コメント失礼しますとてもファンです。いつも素敵なお話をありがとうございます。最高です！！！！！ (2020年5月17日 20時) (レス) id: 2d9a1a0004 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：依 | 作成日時：2020年5月17日 20時
