・ ページ14
「私、木葉とは友達じゃいられないの」
私は木葉みたいに誰とでもそれなりに付き合うなんて器用なことは出来ないし、彼のことを好いている子がいるのを知っているし、それに彼だっていつもまんざらではなさそうで。
その度私が苦しくなるのを、君は知らないだろう。
「……何で」
「……何でも。もう、一緒にいるのやめよう」
木葉の背で水色の空がだんだんと橙色に呑まれていく。
「ヤだね」
少し横を向いた木葉の頬が、淡くオレンジに染まる。
「無理だから、もうこれ以上。私、最低なんだよ、ほんとに、酷いの。だから……嫌いに、なってよ……」
私ばかり辛くて、苦しい今の関係に耐えられない。所詮、自分勝手だった。そんな自分は嫌いだし、嫌いになって欲しい。
目に浮かんでいた涙がほろり、一粒溢れれば、あとはダムが決壊したみたいにとめどなく流れ続ける。
「お前のこと、嫌いになりたくねェよ」
少し間が空いてから聞こえた控えめなその声に顔を上げる。
息を呑んだ。大きな枠にはまって、すっかり茜色一色の空に溶けてしまいそうな木葉は、まるでどこかの絵画のようであまりに美しかった。明るい髪が夕陽を受けてきらりと光っている。
そんな彼が、今までに見たことがないくらい悲しそうな顔で笑うから、ああ、傷付けてしまった、と後悔の念が私を襲う。
「嫌いに、なりたくねェ」
木葉がそう言って一歩、また一歩と近付いてくる。目の前に来て、彼は私の手を取った。
彼の手がするりと私の手の甲を滑って、私の指の一本一本を絡め取る。手のひらが合わさって、それを確かめるかのように木葉がぎゅ、と握った。初めて触れた木葉のそれは細くて、骨ばっていた。
熱い手から彼へと視線を向ければ、伏し目がちだった彼のそれとぶつかる。空いた方の手で、何か言いたげな木葉が私の目元を優しく擦った。
心做しか木葉の顔は紅く染まって見えて、どこか消え入りそうに困ったように私を見つめる彼の儚さが、もしかすると私たちの関係はとうの昔に破綻していたのではないかと、そう思わせた。
それは、私たちが黄昏時に飲み込まれてしまったからかもしれない。わずかに主張し出した鼓動をなだめるようにそんな言葉を唱えてみた。
ふと目をやった窓の外の鮮やかな朱は、今にも藍に掻き消されてしまいそうだった。
38人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
依(プロフ) - しおさん» わ、しおさん!!ありがとうございます!!!!!!嬉しいです!!!!!! (2020年5月17日 21時) (レス) id: 1c396819ac (このIDを非表示/違反報告)
しお(プロフ) - コメント失礼しますとてもファンです。いつも素敵なお話をありがとうございます。最高です!!!!! (2020年5月17日 20時) (レス) id: 2d9a1a0004 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:依 | 作成日時:2020年5月17日 20時