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「及川さんが入れてきてあげました」
しばらくして、ジャンケンで負けた及川がソフトドリンクを入れに行き、顔を歪めて戻ってきた。及川の口角が少し上がっているので、ハイ、と渡されたコップを疑いつつ、ひとくち、ふたくち、と口に含んだ。
「……まっっっず」
あまりの味の悪さに、私はまだ半分ほど残っているコップから顔を背ける。案の定、ニヤニヤしている及川が特製ドリンクを作ったらしかった。
「ちょっとちょうだいよ」
そんな不味いの、と花巻が私の手からコップを取り上げた。
「ほんと、そんな不味い?……及川さんにも1口ちょーだ、って、あー、マッキー全部飲んじゃった」
入口付近で立ったまま騒いでる及川を無視して、たしかに不味いな、と花巻は空になったコップをテーブルに置き、その代わりに彼のジンジャーエールを私の手に戻した。
「あ、次俺だわ」
わり、と花巻は立ち上がって私の前を通って行く。
曲が始まる。アップテンポな明るい調子の淡いラブソング。初めて聞く歌だった。軽くて、楽で、花巻みたいだと思った。
花巻はずっと歌詞の表示される画面を見つめていて、つられて私もその言葉をなぞる。
君となら。僕となら。
歌い終えた花巻がコトン、とテーブルにマイクを置いた、その刹那、彼と視線がぶつかる。
何を言うわけでもなく、ただただ目が合った。今日の花巻はどこかおかしい。
戻った花巻は、及川を奥に詰めさせて私の左隣に腰を下ろす。何となく、さっきの花巻が頭から離れない。
ソファーについた手の、私の小指と花巻のそれがちょん、と触れた。それだけのことに妙に胸がざわつく。肩と肩が小さくぶつかる度、腕と腕がわずかに擦れ合う度、脳裏に視線を交わした花巻がチラついて、楽しそうに笑っている彼の隣で、私はどうすればいいかわからなくなった。
ただ彼が、どんな意図であの歌をうたったのか、その視線はどこを向いているのか、はたまたそれら全てには何の意味も無いのか、少し知りたくて、私は家に帰ってあの曲を口ずさんでみた。
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依(プロフ) - しおさん» わ、しおさん!!ありがとうございます!!!!!!嬉しいです!!!!!! (2020年5月17日 21時) (レス) id: 1c396819ac (このIDを非表示/違反報告)
しお(プロフ) - コメント失礼しますとてもファンです。いつも素敵なお話をありがとうございます。最高です!!!!! (2020年5月17日 20時) (レス) id: 2d9a1a0004 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:依 | 作成日時:2020年5月17日 20時