【呪術廻戦】もう一度その声で名前を呼んで。2

いつか黒百合が咲くとき ページ31

『げ、夏油って誰ですか…俺は禪院です…夏に油って書いて夏油なんてましてや同級生の七海くんなんて知りません…！』

「バリバリ知ってるじゃないですか」


……まちがえた。


やめよう、うん。でも諦めたくないな…

認めたくない。

俺が夏油だったって認めるしかないけどやっぱり認めたくない。

傑兄との思い出も、五条さんや灰原くんたちとの日々を無かったことにしたい訳じゃない。

ただ思うのは、俺が誰かの位置を取って代わっているんじゃないかということ。

本来居るはずだった人の居場所を奪っているんじゃないかと思うと立ち直れなくなりそうなんだ。

それなら違う人だと割り切って、俺は俺だと夏油Aじゃなくて禪院Aだとはっきり言えればどれだけ救われるだろう。


それでもみんなのことを忘れたくなくて、無かったことになんて絶対したくなくて、夏油Aでも居たいから欲張りだと自分に罵られて。


俺は自分がどうしたいのか分からないんだ。


会いたいのは本当、会えて嬉しいのも本当。

でも迷惑かけたくないから、混乱して欲しくないから、今俺が居ない幸せな日常を壊したくないから、会いたくないのも本当。



そして俺に起こっているこの現象もあの時会った大国主様はただ俺の願いを叶えてくれただけで、この現象を起こしているとは一言も言ってなかった。

まあ起こしてないとも言っていないけれど。


とにかく生まれ変わるならそこら辺の石ころでよかった。

たまにみんなの笑顔を見れて、それだけで。

俺がいたから助けられた人なんてきっと居ない。

みんな俺がいなくても大丈夫だったんじゃないかなって、否、大丈夫なんだろうってずっと前から分かってるんだ。

俺が必要も無いのに勝手に助けに行ったりして、それで自分は死んで相手に嫌な思いだけさせて。


そんなのただの自己満足の塊じゃないか。


でも、それでも目の前で危険な目にあっていると放ってはおけないと思うのだから、俺はやっぱり自分が嫌いだ。



いっそ、誰かが俺を拒絶してくれれば。



なんて他人任せな所も最低に嫌いだ。


だから、せめて迷惑をかけないように痛いのも悲しいのも寂しいのも辛いのも全部押し殺して笑っていた方が、きっとその方がいいんだよね。

続→←続

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す