第4話 ページ5
何故かインターホンを押したくなり、誰もいないのにインターホンを押した。ピンポーンっと虚しい音が5階に反響する。
高いところからの景色というのは地上とは違う雰囲気をもっている。今まで歩いてきた街が嘘みたいに小さく見える。
靴を綺麗に揃えておき、リビングへと向かう。
ソファーにテレビ、必要最低限の物は揃ってあるようだ。決して柔らかいとはいえないソファーに倒れ込む。引越しというのはここからがめんどくさいところだ。
届いた荷物を開け、なにもなかった部屋を部屋らしくしていく。
クローゼットの中には服やタオルなどを。
引き出しの中には手帳や大切な書類。何かあったときのために銃、ナイフは奥に閉まっている。
最後の箱を開け、一番上にあった写真立てを取り出す。
高校を卒業してもうすぐ大学生になろうとしていた頃だ。楓の姉と楓と楓の姉の友達が写っている。
もう二度と会うことができない2人。
「姉さん…」
楓の呟きは五月の優しい風と共に消えていった。
段ボール六箱以上もの片付けを一人でするのは流石にキツすぎる。終わったときには真上にあった太陽が西の方へ傾いていた。
辺りがオレンジ色に染まっている。この時間でしか見られない空のグラデーションは凄く綺麗だ。
お隣さんから貰ったかお煎餅を30回数えながら噛む。
疲れたときには甘い物だが、あいにく冷蔵庫の中は空っぽ。買いに行く気力も無い。
パソコンを開き、これからの行動について考えていると携帯が鳴った。
「長旅お疲れ様。電話に出れなくてごめんなさいね。
ちょっと立て込んでて。」
「飛行機の機内食のハンバーガーが美味しかった。」
「そんな事は聞いてないわ。」
優しい声とセリフが合っていない。会話の流れがこっちと電話の向こう側とは違うようだ。
「ジェームズが心配してたわよ。貴方、地図読めない
からって。」
心配するならもっと説明してくれっと心の中で悪態をつく。
しかし、ジェームズの説明不充分の悪さが割合で2だと考えると、楓の地図が読めない悪さが8割である。一番の問題は楓がこの事に全く気付かないことである。
「貴方がこっちに来てくれて心強いのよ。
シュウが居なくなってから、戦力に欠けるから。」
電話の向こう側から聞こえる悲しげな声にどう反応していいか分からなくなる。
こういう辛気臭いのは苦手な方だ。
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作者名:ハム | 作成日時:2020年5月9日 23時