イくんの、好きな人。 (ページ5)

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そして、そんな彼に惹かれた、特に大きな出来事があった。

私は、前にも言ったように、どちらかと言えば目立たない。クラスでもそれは変わらなくて、毎日同じような一日を過ごして、なるべく人目につかないような生活をしている。

だからこそ、今ではこんなに彼のことを好いているけれど、正直な話、学園の人気者である彼のことは少し苦手だと思っていたのだ。

そんな印象が変わったのは、まだ学期が始まったばかりの四月が終わりを迎えようとする時期だった。

その時の私は所謂イエスマンというやつで、人から頼まれてしまったことは、考える前に了承してしまうような人だったのだ。

そのときは、同じクラスの女の子に、掃除当番を変わってほしいと頼まれた。

本当は、ユナと二人で帰りに用事があったのだけれど、私は凄く困っている様子のその子を見ると、どうしても断ることに罪悪感が湧いてしまって、首を縦に振ったのだ。

先生に頼まれていた係の仕事も残っていたし、どちらにしろ放課後は残らなければいけなかった。やることの一つや二つ増えるくらい、どうってことない。

そう考えた私が悪かったんだろう。

『終わらない⋯』

何種類かあるプリントをしっかり名前を確認してから、一纏めにしたものを持って、職員室から出た後は結構いい時間になってしまっていた。それでも、少しは掃除していかないと怒られてしまう。

面倒に思いながら、ほうきを掃いていると、ドアの向こう側から足音がして、教室の前で止まった。

「A？何やってんの、こんな遅くまで」

『あ⋯えっと、係の仕事終わって、ちょっと掃除してから帰ろうかと。ミンホくんは？』

「部活終わってから、忘れ物取りに来たんだけど⋯今日って、当番じゃないよね？」

事情を説明すると、帰ろうとしていた彼は、何とロッカーからもう一つほうきを持ってきて、私と反対側の列を掃き始めた。

『えっ、大丈夫だよ！今から帰るんだよね？』

「でも、こうしないとAも帰れないだろ。一人でやるより二人でやったほうが早いし」

『ありがとう、ミンホくん』

「⋯やりたくなかったら無理しなくていいし、ちゃんと自分の為にも断るんだよ」

そう言ったミンホくんの耳は少し赤くて、ぶっきらぼうな口調だったけど、彼の優しさが充分に感じられて、胸がギュッとなって、じんわり指先から暖かくなる気持ちがした。

これが、俗に言う恋というものなのか。それは私にとっても分からない。

でも、この瞬間に学園の王子様は、大切な存在へと私の中で明確に変化したのだ。