たとえばこんな2-2 ページ6
」
少し掠れたその声に反応して、彼はこちらへ戻ってきてくれた。
「どしたん」
靴を脱いだものの玄関から動こうとしない私を疑問に思ったのか、頭に手を置き、顔を覗き込んでくる。
今日くらい、甘えてみてもいいだろうか。
両手を広げて、黙っていれば、頭に置かれていた手がそっと外れ、背中に回される。
ふんわり香る私の家の柔軟剤。
「遅かったな」
「うん」
「おつかれ」
「ありがとう」
ゆっくりと交わされる会話が心地いい。
「寒かった」
「クリームシチュー作った。お前好きやろ？」
「うん、好き」
「知っとる」
「しょっぴくんのこともすき」
「それも知っとる」
いつもなら言わないような言葉もぽろぽろと口から溢れる。
いつもより少しツイてなくて、いつもよりちょっと寂しいなんでもない日。誰だって大人になればいつか出会う日。
ただそれだけなのに
「コートもマフラーも冷たくなっとるし、部屋はいらん？」
彼は、童話の中の王子様がそうするように手を差し出してくれる。私は差し出された手を握り返して、立ち上がった。
私が、コートをしまったり、手を洗ったりしているうちに準備が終わったのか、机の上にはあっという間に夕ご飯が並べられていた。
クリームシチューにサラダに唐揚げ。どれも私の好きなものばかり。
クリスマスみたいだね、なんて笑えば、彼は真面目な顔をしてクリスマスはもっと豪華なとこ連れてってやると言う。こんな幸せな日々が今年のクリスマスも、来年も、そのまた来年も続くのだろうか。
ただいまと言えば、当たり前のようにおかえりが返ってきて、2人で一緒にご飯を食べて、のんびりテレビを見て、たまに買い物なんかにも行って。そんな日々がこれから先も続くのだろうか。
もしそうなら、それはきっととても幸せで、甘くて、何も何も変えがたい時間だ。
そんなことを考えていると、なんだか胸の奥に暖かさが染み出してきて元気が出た。
暖房が効いて暖かい空気が満ちたリビングでは、お腹いっぱいになると急に眠気が襲ってくる。
「しょっぴくん」
ぼんやりとテレビを見ていた彼を、私の座っている隣をぽんぽん叩いて呼び寄せた。
何も言わず隣に座ってくれたショッピくんの肩に頭を預ける。
「眠いなら布団行ったほうがええで。なるなら、俺帰るし」
「もうちょっとだけ」
そうお願いすれば、わかったと小さく返事して、彼の視線はまたテレビに戻った。
そして私はゆっくりと目を閉じた。
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