KyogokuKazato ページ9
「おはようさん」
『ん、おはよ』
2月14日、世間は恋愛における一大イベントとしてお祭り騒ぎの日に私たち二人は買い物に来ている。こんな日に二人きりで出掛けるなんて誤解されてもおかしくないけれど、この日を指定したのは私ではなくこの男の方だから深い意味はないのだと、一応鞄の中に忍ばせてはいるけども恋愛的な要素はないのだと誰かに言い訳したくてたまらないような衝動に駆られている。
「最初はどこ行こか」
『じゃあアウター見に行きたいかも。最近の気温に丁度いいのがあんまないから』
「わかった」
「これとか似合うんちゃう」
風斗が提案してきたのはチョコレート色のコート。腰元のリボンのある可愛らしいデザインのものだ。
『私にはちょっとかわいすぎじゃない?』
「お前は可愛いからちょうどええやんか」
『は?』
「なんやねん褒めたのにその反応は」
『いや...別に』
ちょっと不満そうな顔をしたものの、すぐ気を取り直して一回羽織ってみろと押しつけてくる。
「サイズもちょうどええな」
『そうだね』
「ほな買うたるわ」
『は?』
「さっきからなんやねん態度悪いなあ」
なんや御機嫌斜めなんか?と笑いつつレジへと向かう彼の後を慌てて追いかけた。
『いや、流石に自分で買うって』
「ええから大人しくプレゼントされとき」
『えぇ...』
おかしい。今日のこの男はおかしい。こんなの、まるで。
「デートみたい、やな」
『なっ...!』
さらっととんでもない発言をした当の本人はへらへら笑っている。
「次の店行こうや。俺食器見たいねん」
『あ、うん』
自分ばかり意識しているみたいで恥ずかしいし、なるべく気にしないようにしたいのにさっきの発言が頭をいっぱいにしてしまう。周りからは私たちもバレンタインデートをしているカップルにでも見えているのだろうか。風斗はそう勘違いされても構わないと思ってくれているのだろうか。
「なあ聞いとる?」
『え、いやごめん何?』
「お前どっちのが好き?」
彼の手には二つのマグカップがあった。
片方はレトロなイラストのもので、もう一つが西洋風のデザインのものだった。
『私だったらこっちのレトロな方かな』
「ほなこっちやな」
『え?私の好みでいいの?』
「だってお前用やし」
『私用?』
「俺ん家来た時にお前専用のあった方がええやろ」
『まあ結構遊びには行くけど...』
「そやろ?」
なんなんだ今日は。本当のカップルみたいなことしかしていないぞ。
201人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:苺砂糖 | 作成日時:2024年2月10日 22時