TakahiraKuruma ページ4
彼のことは愛おしいと思う。
だけどもそれ以上に苦しいとも思う。
彼に落ち度があるわけでは決してない。
私は彼ほどよく頭がまわるわけでも考えを的確に言葉にして人に伝えることができるわけでもない。
そして私は弱い。自らの思いを抱えきることができずに押しつぶされそうになってしまっている。彼の前で無様な姿を晒してしまうよりもここで終わらせてしまった方がお互いのためにも良いのではないか。
彼が帰ってきたら別れを告げてここを去ろう。そう心に決めると、重い腰を上げて荷物をまとめ始めた。
深夜2時を回ったころ彼が仕事からようやく帰ってきた。静かな家の中に玄関の扉を開く音がやけに響いた。
「あれ？起きてたの？」
『...うん。話したいことがあって』
「わかった、手洗ってくるからちょっと待っててくれる？」
『うん』
水道の音に紛れるようにひそかに深呼吸をした。決意が揺らがないように、泣いてしまわぬように気を引き締めた。
「はい、ただいま」
『おかえりなさい』
「それで？こんな時間まで待ってるほど話したかったことって？」
『えっと...』
「ちゃんと目を見て話してくれる？大事な話なんでしょ？」
『あ、ごめん...』
「それと。後ろの荷物の山は見ない振りした方がいい？」
『え、あの』
「言っておくけど俺は優しくないからね？俺は自分が納得するまではどんな理由があろうと何も受け入れないからね。それを覚悟したうえで話してよ」
『わかった...あのね、私と別れてほしい、です』
「理由は？」
『それはその』
「なんで目逸らすの」
直樹は怒りとも悲しみともとれるような感情を込めた瞳で見つめてくる。
「俺の事、嫌いになった？」
ただ首を横に振る。
「俺が何かしちゃった？」
これもまた首を横に振る。
「じゃあ...ほかに好きな人でもできた？」
別れるのなら噓をつけばいいのに、大好きな彼に嘘をつくことができなくて否定することしかできなかった。
「じゃあどうして別れたいの？」
『だって...私、直樹の重荷になりたくないの』
「...は？」
直樹にしては珍しい、とても気の抜けた返事だった。
「うん？ちょっと待って何言ってるかわからないんだけど？どうしてそんな結論に至ったの？俺がそう思わせるようなこと言った？」
『ううん、直樹は何も悪くないよ。私個人の問題だから』
「でも俺たち二人の今後の関係についての話でしょ？それならあなた一人の問題ではないでしょ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 201人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：苺砂糖 | 作成日時：2024年2月10日 22時
