ItoKoji ページ13
不安で眠れない午後三時。こっそり布団から抜け出して月を見上げる。
やけに綺麗な月はまるで私を嘲笑うかのようで苦しかった。
冷蔵庫の中に眠るチョコレートを思い出してはため息をつく。
彼が起きる前にこっそりチョコレートを買いに行こう。
起こさないように細心の注意を払いつつ家を出た。
ピンク色の箱に入ったTHE・バレンタインチョコというようなものを買えたしこれで一安心だなと思いつつ玄関の扉を開いたら目の前に彼が立っていて思わず悲鳴をあげそうになった。
「どこ行ってたんですか」
『ちょっとコンビニに...』
「こんな時間にですか」
『急ぎの用だったから』
「普通に考えたら危ないってわかりますよね。せめて僕を起こしてくださいよ」
『それは...』
「僕に言えないようなもの買ってきたんですか?」
『そんなんじゃないよ。ほら、寒いからお布団戻って』
誤魔化すために無理やり寝室に押し戻そうとするものの、男性の力には敵わずリビングで捕まってしまう。
「チョコレート、ですか?」
『うん...バレンタインの』
「僕てっきり冷蔵庫の中のやつ貰えると思ってたんですけど」
『え、知ってたの!?』
「飲み物とるときにあ、あるなーって...じゃああの手作りのは僕以外にあげるんですか」
『いや違うけど』
「じゃああれどうするんですか」
真っ直ぐで、それでいて不安げに揺れている彼の瞳に見つめられて噓がつけずに正直に話すことにした。
『あんま上手くできなかったし既製品の方が幸司も喜ぶかなーって』
「僕はあなたがくれるのならなんだって良いです。というか深夜にあなたが出かけてしまうくらいならいらないです」
『ごめんって』
「目が覚めたらどこにもあなたがいなかったときの僕の気持ち、わかりますか」
『心配、してくれたんだ』
「するに決まってるでしょう、どれだけ不安だったと思ってるんですか」
『それはごめん』
「もう二度と、こんなことしないでくださいね」
そっと手を重ねられる。冷え切ったその手は震えていて、彼の不安な気持ちが伝わってきた。
『ごめんね。もうしないよ』
「約束ですよ。もう僕をおいてかないでくださいね」
『うん、約束』
窓から差し込む月明かりに照らされた彼の物憂げな顔があまりにも美しくて、思わずキスをしてしまった。
「...ご機嫌とりですか?」
『違うよ。ただしたくなったからしただけ』
「...ずるい人ですね」
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作者名:苺砂糖 | 作成日時:2024年2月10日 22時