KyogokuKazato ページ2
私の横で静かに眠る男を起こさないように、そっとベッドから抜け出す。どうにも眠れないのだ。胸が苦しくて。
決して体調が優れないわけではない。至って健康体だ。
身体的な問題ではない。精神的なものだ。
幾つになってもやはり自分は変われない、この男のように大人にはなれなかったのだ。
人並みに愛されて育ってきたとは思う。愛情に飢えているわけではない、ただ、自分から相手に愛を表現するのが人よりも苦手なだけだ。
恋人への愛は勿論きちんと持ち合わせてはいる。
それを表に出すのが怖いだけなのだ。
重い、と思われたくない。嫌われたくない。と考えていくうちにどんどん想いは膨らんで、やがて抱えきれなくなって逃げ出すのだ。
そして、きっと今回もそうなのだと思う。
(本当に、好きなんだけどな)
リビングのソファの上で体育座りをしながら、今度はいつ逃げ出そうかと考えている。そのくせ別れるのは辛いのだ。
「なぁ、何してるん？」
思考の海に沈んでいた私の耳に、風斗の優しくて低い、寝起き特有の少し掠れた声が届いた。
いつのまにか溢れていた涙を隠す為、俯いたまま、なんでもないよ。と答えた。
「なんでもないわけないやろ。なぁ、顔見してや。」
隣に座った風斗はそっと私の顔を上げさせた。
「なんでもないやつがこんなに苦しそうな顔するわけないやろ」
『本当になんでもない、大丈夫だから...』
「それやめろ。大丈夫ちゃうやろ。俺のことどんだけ傷つけてもええけどお前自身のことは苦しめたらあかん。」
圧倒的な優しさと包容力で抱きしめられて、さらに愛おしさが増して涙が余計に溢れ出てしまう。
「いくら泣いたってええよ。せやけど一人で泣かんといてくれ」
『ごめん...』
「謝らんでいい。気づけんかった俺が悪いねん。」
それは違う、と否定したかったけれど涙のせいで上手く喋ることができなかった。
「ん、落ち着いたか」
『ごめん...』
「せやから謝んなや」
『ごめ...』
「せめてありがとうって言うてくれ。まぁ別に当たり前のことしただけやしお礼もいらんけどな」
『当たり前...？』
「そらそやろ。大事な恋人が泣いとるのになんもせんわけがない。」
『大事な恋人...』
「せやで。たとえお前が俺のことどう思っていようが俺には誰よりも大事やねんで。」
『私だって...』
「ほんまに俺のこと大事に思うてるんやったら今抱えてるもん全部ここで吐き出してや。ずっとなんか隠してるやろ。心の壁っちゅーか距離感じんねん。」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 201人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：苺砂糖 | 作成日時：2024年2月10日 22時
