選択肢なんて、いくらでも。【ナカノヒトゲノム】part2

▽79.鬼退治 ページ34

「あの、カイさん先に行っててくれませんか？」

「そりゃなんで？」

「まだ調べたいものがあるんです」

「好奇心はいいがお前さん言うてまだ怪我人だぜ。なるべく大人しくしたほうがいいんじゃねェか？」

「好奇心て……大丈夫ですよもう治りかけですし。後で必ず追いかけますんでお願いします」


いいからと言わんばかりの私の発言にカイさんはほどほどにしてくんなィ、とため息をついて部屋から出て行く。

カイさんのことたがら実は扉の前で待ってましたとかいう展開があってもおかしくない。少し耳を澄ませていると、カロンコロンと下駄の音が遠ざかっていくのが確認できた。


調べる、と言ってもただ確認だ。

それはさっきカイさんが倒した何か。
他人の事情に踏み込むのは良くないかもしれないが、少し気になる。


「……これ、だよね」


机に並んだ三つの写真立て。その中で見えないように倒されている一つを手に取った。

キハチ長老とキッカちゃんが仲良さそうに映っている写真。
笑顔でキハチ長老に抱き付くキッカちゃんの手には一本の花。キハチ長老は釣竿を持っている。

一緒に外へ遊びに行ったのかな。ほんとに仲の良いおじいちゃんと孫って感じだ。



でも、なんでカイさんがこれを？

別に倒さないと行けない理由なんてなかったはず。あの人のことだ、理由のない行動はしない。十八番の気まぐれも写真なんかに発動するとも思えない。

…………。



「仲の良い姿を見たくなかったから……？」


わからない。私がわかるわけもないけどもしかすると。

何事にも縛られたくないという自由な言動。どんな時でも自分の意思を貫く姿勢。
一番帰ることに執着がある、と言われた時の表情。


“ルールなんざ破るためにあるんでェ”

“俺ァ自分で決めて自分で動く。顎でこき使われんのはもう御免なんでェ”


……前々から気になってはいた。

そして今日のトゲのあった言い方。間違いなく家庭で何かあったとしか思えない。


「それは多分、皆同じなんだろうね」


ここに誘拐された私達には皆共通する何かあるはずだ。
それならあって仕方ないんだよね。

……きっとこれ以上考えたって堂々巡りだ。


私は写真を立て直した後、部屋を後にした。

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