選択肢なんて、いくらでも。【ナカノヒトゲノム】part2

▽60.タワー修繕工事 ページ16

「で？なんでそれを俺達に話した」

「……皆が従順にゲームに取り組む中、お前だけが脱出の最短ルートを進もうとした。つまり一番帰ることに執着している、そう思った」


出来事を思い返すように下を向いていた忍霧さんは、真っ直ぐカイさんを捉えてそう言った。

つられて視線を移すと、カイさんは目を細めていつもとは違う表情を浮かべていた。
否定的ではなくそれはまるで侮蔑を感じたような「それは絶対に叶わないことなのに」という顔。


「妹も誰よりもそう思っていたはずだ。あいつは家から……俺から離れるのを極端に嫌う。この一週間皆を観察していたがお前の行動と性格が一番妹に酷似していた」


バーカウンターに座ってかったるそう頭を掻くカイさん。
……忍霧さんの話を一体どう感じてるんだろう。生真面目な忍霧さんの言いたいことはきちんと伝わってるのかな。



「作世は外に出ることや散歩をよくするだろう？」

「えっ!?あ、はいします……」

「タワー内を歩いているところもよく見る。それは多分好奇心からなんだろうが散歩ついでに探索をしていないか？……現に今がそうだ」

「探索というより気になったものを調べる、みたいなかんじですけど……」

「それでも探索していることに違いはない。気になるものは調べる、周りをよく見てるお前なら他の奴らとはまた違った情報を持っているだろう」


どうなんだろう。そしてなんて反応したら正しいんだろう。
外に出られるようになったのもここに来てからだし、無人だから出来てるわけだし多少の解釈違いはあるんだけど。


「お前達と行動を共にすれば妹の消息を知るヒントになるかもしれない。だから……」

「わかったわかった。俺らァ検体モルモットってわけだな」

「ちがう、情報共有だ！この街もゲームも俺が想定していたものより規模が大きい。一人では何年かかるかわからない。お前達が探索で得た情報を全て教えてほしい。俺も全て伝える……！」

「…………」

「嫌でぇ」


返す答えに迷っていると、カイさんは何の迷いもなくそう言い放った。

拒否の言葉と合わない爽やかな笑顔。快くオッケー出すのかと思った。



「なっ、なぜだ……!?」

「んなもん一人でやったほうが気楽だからでぇ。クソ真面目なお前さんのこった。分担だのノルマだの押し付けてくんだろ？」

「……そ、んなことは」

「俺ァ自分で決めて自分で動く。顎でこき使われんのはもうごめんなんでェ」


まるで昔そういうことをされていたかのような口ぶり。

この人一体なにがあったんだろう。さっきから色々、大丈夫なのかな。

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