追憶ノ肆___雨降る傘 ページ10
【その少年、実に奇なり】
夕方、雨が降ってきた。これから弟を迎えに行こうとしていたのに。仕方なく、紅い番傘を手に取り、門に向かう。
大門を動かすのは一苦労なので、いつもは小口からだ。脇の戸をそっと押し開け、屋敷の領内から出る。
雨は思ったよりも本降りで、驚きながらも傘を開いたときだった。着物の袖が雨でびちゃびちゃの地面を擦った。
「あっ」
小さく声が上がる。少年の声だ。同じぐらいの年の子だろう。ぼんやりとした瞳で、引き摺った袖から視線を外し、顔を上げた。
綺麗な少年だった。燃えるような赤毛、特徴的な紋様が刻まれているかのような、大きな意志の強い瞳。逞しい体格。
着ている着物が高級なものだ。かなり裕福な家に生まれたのだろう。それにしては、年齢に反して屈強な体をしている。
笑顔の少年は視線を交えると、驚いたように固まった。言葉が見つからないのだろう。Aも同じように動けない。
彼は傘を持っていない。Aは、直ぐに理解する。雨宿りをしているのだ。では、傘を差し上げる方が良いのではないのか。
『……もし』
「お、おう?」
戸惑ったように落ち着かない瞳。キョロキョロと動かして視線を定めない。その姿に少し、面白く思いながら問いかけた。
『傘がないのですか』
これが彼との出会い。
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ユリ(プロフ) - 出来ればでいいんですが、後日談的なものがみたいです (2020年8月26日 18時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - ユリさん» 最後まで読んで下さり、本当にありがとう御座いました。またこの作品に顔を出してもらえると嬉しいです。 (2020年4月7日 21時) (レス) id: 353512f049 (このIDを非表示/違反報告)
ユリ(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで感動しっぱなしでした (2020年3月2日 11時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - アリスさん» 毎度毎度、遅くて申し訳ないです!!最近、スランプ中でして……。どうにか必死に更新をしたいと思います……!! (2020年2月23日 10時) (レス) id: 9ec8afc8ac (このIDを非表示/違反報告)
アリス - 続きがものすごく気になってそわそわして寝られません。更新頑張ってください (2020年2月21日 22時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年7月8日 14時