壱ノ伍 家出 ページ9
【その言の葉の意味】
アオイに頼み、彼女を客間に通すよう伝える。何処か緊張感が走る空間。杏寿郎の心の中も、少し不安が混じっている。
「失礼します」
アオイの遠慮がちな声。数回ノックされた扉が、ギギ……と軋みながら開いた。徐々に彼女の姿が紐解くように顕になってゆく。
「A!」
立ち上がり、Aを抱き締めた杏寿郎の声で我に返った。彼女の容姿に、惹き付けられていたのだ。
「あの置き手紙は、一体何なんだ?」
『……?買い出しに行ってくる、という意味ですが、何か……?』
「探さないで、とは何なのだ聞いている!」
鈴のような声を発した彼女の声は、無機質で感情を上手く読み取れない。だが、その声音には困ったような色が反映している。
一方、杏寿郎は彼女が自分の元に戻ってきてくれたという安堵感からか、いつもの元気溢れる質量に戻っていた。
『あぁ、あれですか』
「家出でも、したのかと心配した」
『……何を仰っているんです』
「むう……?」
『私には、彼処以外に帰る場所などありません。でなければ、何処に帰れと?』
「A……」
その言葉に杏寿郎は、改めてもう一度強く抱き締めた。周りの柱たちは二人の様子を微笑ましく見守る。
「良かったですね、煉獄さん」
「こんないい嫁に、逃げられんなよ!!」
「いいわね、キュンキュンしちゃう!!」
「……良かったな」
皆それぞれ言いつつ、二人の背中をグイグイと玄関まで押していく。追い出していくようにも見える。
甘い二人の空間に耐えられなかったのだ。そんなことは知らない二人は、されるがままに屋敷の外に。
「付き合ってもらってすまなかった、感謝する」
「えぇ、煉獄さん。また」
あんなに見せつけるようにイチャつく光景を見せられたら、嫌でも追い出したくなるだろう。どっと疲れが体にやってきた。
後から分かったことなのだが、探さないでくださいの意味は、杏寿郎に食材の買い出しをしていると、何を作るか知られてしまう。
それだと、また挑戦する!、なんて言って破滅的な料理を作られてしまいそうだ。それはあまりにも千寿郎が不憫でならない。
なら、と買い出ししているところに来ないでほしい、という意味であの置き手紙を書いたらしい。
普段から口数の少ない彼女。手紙にも一言足りなかったようだ。すれ違い、と言っていいのかは謎だが、ほんの少しのすれ違いだ。
もちろん、この件は一言に尽きる。面倒だった。
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ユリ(プロフ) - 出来ればでいいんですが、後日談的なものがみたいです (2020年8月26日 18時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - ユリさん» 最後まで読んで下さり、本当にありがとう御座いました。またこの作品に顔を出してもらえると嬉しいです。 (2020年4月7日 21時) (レス) id: 353512f049 (このIDを非表示/違反報告)
ユリ(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで感動しっぱなしでした (2020年3月2日 11時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - アリスさん» 毎度毎度、遅くて申し訳ないです!!最近、スランプ中でして……。どうにか必死に更新をしたいと思います……!! (2020年2月23日 10時) (レス) id: 9ec8afc8ac (このIDを非表示/違反報告)
アリス - 続きがものすごく気になってそわそわして寝られません。更新頑張ってください (2020年2月21日 22時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年7月8日 14時