陸ノ参 走れ想うままに ページ28
【壊れた天秤の右と左】
炭治郎に、杏寿郎が実行するべきこと。そして上司命令をしてから、また後方に戻る。それはもう、風の速度と同じように。
愛する彼女を一人にしたことが、すごく恐い。目を離した隙に、心臓を一突きされてしまえば、命は終わってしまう。
常に何処か楽観的に考えているように見える、と度々言われるがそうではない。影で支えてくれるAがいるからこそなのだ。
『……っ!!』
「A!」
やはり危ない。刀を扱い慣れていない上に、素人以下の剣筋だ。どのような動きをすればいいのか、千寿郎よりも理解していない。
もともと元来から、剣才は備わっているのだろう。運動神経だって、ただの一般人よりは鍛え抜いた戦士の動きに近いと言える。
素早く軽やか。羽根でも生えているのかと、疑うぐらいにふわりと物音一つ立てない動きは洗練されている。とても美しい。
手探りで剣術を見よう見まねしている。それでもやはり、Aは優しいから。鬼に刃を振る時に躊躇して、判断が遅れてしまった。
「……危なかったな」
『杏寿郎さ……』
「鬼は俺たちを喰おうとしている。迷っている暇はないぞ、A!」
『……はい』
地を蹴り、隙間に身体をねじこむ。後ろを振り返ったAが視線を定める前に、鬼の肉を切り落とした。その動作は簡単だ。
でも、それだけでAにとってはおぞましい光景に違いない。鬼とはあの日以来、ほとんど無縁の生活を過ごしてきたのだ。
平和主義であり、少し甘い。その怯えすらなければ。父親の呼吸を受け継いでいれば。立派な剣士になっただろうに。
だが、彼女が鬼殺隊の剣士として戦っている姿は想像ができなかった。やはり血流を浴びていて、刀を握るのはAとは言えない。
『後ろの車両に行ってください。襲われている人もいます。私は大丈夫ですから』
「喰われそうになっただろう!」
『もう、油断はしませんから』
「だが」
『杏寿郎さん!前!』
「【炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天】」
話している最中に遅いかかるなど、なんと卑怯なのだろうか。ましてや彼女に心配をさせるなど、自分が不甲斐ない。
安堵したように微笑んだAを抱き締めた。確かに鬼殺隊として人を守らないのはご法度ものだ。その温もりを強く抱き締める。
逃がさないように、感じていられるように。何かを察したであろうAも、背中に手を回してトントンとあやすように叩いてきた。
「……行ってくる」
微笑んだ彼女の額に、口付けをした。
『いってらっしゃいませ』
もう弱音は吐かない。
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ユリ(プロフ) - 出来ればでいいんですが、後日談的なものがみたいです (2020年8月26日 18時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - ユリさん» 最後まで読んで下さり、本当にありがとう御座いました。またこの作品に顔を出してもらえると嬉しいです。 (2020年4月7日 21時) (レス) id: 353512f049 (このIDを非表示/違反報告)
ユリ(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで感動しっぱなしでした (2020年3月2日 11時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - アリスさん» 毎度毎度、遅くて申し訳ないです!!最近、スランプ中でして……。どうにか必死に更新をしたいと思います……!! (2020年2月23日 10時) (レス) id: 9ec8afc8ac (このIDを非表示/違反報告)
アリス - 続きがものすごく気になってそわそわして寝られません。更新頑張ってください (2020年2月21日 22時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年7月8日 14時