伍ノ参 揺られる汽車 ページ24
【目覚めなくとも】
『……どうして』
「どうしたんです、早くいらっしゃい」
父も弟も殺された悪夢でも、見たのだろうか。母が縁を生んですぐに亡くなる夢でも見たのだろうか。悪い夢でも見たのだろうか。
記憶の中にある縁のまま、幼い姿で母に抱きつく縁。翁のようにそれを微笑みながら見守る父。凛とした雰囲気の母。
何かが違うという、それだけが生々しく手のひらの冷や汗が語る。Aは確かに煉獄家に嫁いだはずだ。
あの屋敷で、いつも千寿郎と共に杏寿郎の帰りを待っていたはずだ。なのに、まるでこの光景が現実かのように思える。
『母上、なの……?』
そんなわけがない。母との記憶などあまりにも無さすぎる。この母親はまがい物であり、同じく父も弟も本人ではない。
戸惑いを隠せないまま、立ち尽くすA。その様子を屋敷の影から、青年が見ていた。精神の核を破壊する為に侵入した青年が。
「(見つからないようにしなきゃ……)」
屋敷の塀を錐でブスリと刺した。たちまち、塀が紙のように裂ける。そこから無意識領域となるのだ。
「……え?」
青年は戸惑う。何故なら、そこには藤の花が咲き乱れていたからだ。美しい藤の花は、咲き乱れているよりかは咲き狂っているよう。
精神の核は見当たらない。吹いてくる風が、微かに白梅香の香りを乗せてくる。青年は静かに足を踏み入れた。
この美しい風景に自分が足を踏み入れて良いのだろうか。頭には、それしか浮かんでこない。前へ進むと精神の核が浮かんでいた。
白かった。
無色に近かった。
薄紫色にも見えた。
黒にも見えた。
赤にも見えた。
瞬きする度に色が変わった。
悠々と浮かぶ精神の核に、錐をつきたてることはできなかった。意味もない、何かに感化されたわけでもない。
ただ、その精神の核の前に何も動けなかった。その時だった。現実に引き戻されたのは。どうして引き戻されたのか。
外では鬼の禰豆子が、繋いでいた縄を燃やしたからだ。青年は外に引っ張り出された。気づけば仲間が、少年に錐を構えている。
コイツのせいで、精神の核を壊せなかったのか。怒りで頭が支配され、同じように囲んで錐をつきたてようとした。
だが、それは叶わなかった。
「ごめん。俺は戦いに行かなきゃならないから」
鳩尾を蹴られた。そこから青年の意識はない。
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ユリ(プロフ) - 出来ればでいいんですが、後日談的なものがみたいです (2020年8月26日 18時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - ユリさん» 最後まで読んで下さり、本当にありがとう御座いました。またこの作品に顔を出してもらえると嬉しいです。 (2020年4月7日 21時) (レス) id: 353512f049 (このIDを非表示/違反報告)
ユリ(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで感動しっぱなしでした (2020年3月2日 11時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - アリスさん» 毎度毎度、遅くて申し訳ないです!!最近、スランプ中でして……。どうにか必死に更新をしたいと思います……!! (2020年2月23日 10時) (レス) id: 9ec8afc8ac (このIDを非表示/違反報告)
アリス - 続きがものすごく気になってそわそわして寝られません。更新頑張ってください (2020年2月21日 22時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年7月8日 14時