参ノ弐 蛍舟 ページ17
【夏の今頃は】
「蛍ですか?」
「うむ!三人で見に行こう!」
『千寿郎、汗を拭きなさい。風邪をひきますよ、ほら』
千寿郎に手拭いを渡したAは、台所から箸を持って並べた。昼食の準備をしているのだ。千寿郎も素振りをやめて汗を拭う。
そういう杏寿郎は、団扇を仰ぎながら風鈴の音を聞いて涼んでいる。あれから台所立ち入り禁止令が出てしまい、手伝えないのだ。
「でも、最近は蛍の減少があちらこちらで起こっているんですよね?」
「よもや、よもやだ!」
『何が、よもやなのですか?』
「昔、よくAと蛍を見に行ったろう!」
『……あぁ、そういえば昔によく行きましたよね。杏寿郎さんが千寿郎を背負って』
首を傾げる千寿郎。覚えていないのも無理はない。まだ、四、五歳程度の頃だ。当時のことなんて、記憶に残っていないだろう。
今日は涼しいので、九つの時には蛍は屋敷の近くにある、川にちらほらいるのではないのだろうか。うろ覚えの記憶を掘り出す。
千寿郎は話を聞きながら、台所に行きAの手伝いを始める。そうめんらしく、白くツヤのある太い麺を乗せた皿が運ばれてきた。
「上手そうだな!」
『千寿郎が頑張って素振りをしているので、今日はそうめんにしたんです』
「ありがとうございます、義姉上!!」
『いいのよ、千寿郎』
なんて言って、弟の頭を撫でるAはなんとも愛おしい。抱き締めたいという欲が盛り上がり、慌てて心の中に閉じ込めた。
Aはもう一人分を持ってくると、居間の襖を開けた。廊下からひんやりとした空気が入ってくる。
『お義父様にそうめん、持っていきますから、先に食べていてください』
「なら俺が……」
『いいですから』
襖をパタリと閉じられて、少し不満に思う。家族といえどやはり嫁に、父親の面倒を見せるのは、いけないのではないだろうか。
「むぅ」
(笑顔のまま、)腰に手を当てて、溜め息をつく。千寿郎はそんな兄の姿を見て、苦笑いを浮かべた。
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ユリ(プロフ) - 出来ればでいいんですが、後日談的なものがみたいです (2020年8月26日 18時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - ユリさん» 最後まで読んで下さり、本当にありがとう御座いました。またこの作品に顔を出してもらえると嬉しいです。 (2020年4月7日 21時) (レス) id: 353512f049 (このIDを非表示/違反報告)
ユリ(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで感動しっぱなしでした (2020年3月2日 11時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - アリスさん» 毎度毎度、遅くて申し訳ないです!!最近、スランプ中でして……。どうにか必死に更新をしたいと思います……!! (2020年2月23日 10時) (レス) id: 9ec8afc8ac (このIDを非表示/違反報告)
アリス - 続きがものすごく気になってそわそわして寝られません。更新頑張ってください (2020年2月21日 22時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年7月8日 14時