弐ノ参 当主の考え ページ15
【たとえ未来が見えなくても】
それから数週間後、杏寿郎の顔は酷く険しいまま屋敷に戻ってきた。千寿郎は気を効かせたのか、部屋で書物を読んでいる。洗濯物を畳んでいると、
彼にそっと抱き締められた。暖かな向日葵の香りに安堵して、首に回ってきた腕に触れる。そのまま包み込まれた。
『……どうかしましたか』
「鬼を連れた少年がいてな……」
力が少し強まる。容易に想像できる。多分、彼は産屋敷様の主張に反対したのだろう。それで苦渋の判断をして認めた。
「俺は鬼が許せない」
『……はい』
「お前から大切なものを奪った鬼を」
杏寿郎は強がりだ。弱さを人に見せることを嫌う。自分が不安がることで、後輩たちに不安を与えてしまうことを避けるため。
でも、やはり杏寿郎も人間だ。心の弱い部分だってある。ならここで、Aが受け止めてあげなければいけない。
「俺は鬼が怖い。いつか君まで失ってしまうかもしれない、と」
『……杏寿郎さん』
くるりと体の向きを変えさせられる。そして力強く、胸に押し付けられた。もちろん、加減はしてくれてはいるが。
『私はここにいますよ』
「抱き締めなければ、何処かに行ってしまいそうだと俺は思う……」
弱々しいその頬に、そっと指を這わせる。鬼が憎いと、彼は言う。けれども彼は、鬼とは悲しい生き物だと淋しそうに笑っていた。
『大丈夫ですよ』
彼が押し付けていた腕を緩め、私を見つめた。同じように手のひらを、私の頬に這わせてゆっくりと顔を近付けてくる。
反射的に目を瞑ると、柔らかい感触が唇に当たった。はむっ、と可愛らしい声を上げて、彼が接吻をしたのだ。
「むぅ……」
『……』
片目だけ開けて、杏寿郎を見つめた。目を瞑っているあたり、浪漫チストだなぁと思う。いつも勇ましいのに、可愛らしい。
そんなところが、愛しいと思ってしまう私は可笑しいのだろうか。心の中で溜め息をついて、片目を閉じた。
安心するまでは、唇を離さないでいよう。
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ユリ(プロフ) - 出来ればでいいんですが、後日談的なものがみたいです (2020年8月26日 18時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - ユリさん» 最後まで読んで下さり、本当にありがとう御座いました。またこの作品に顔を出してもらえると嬉しいです。 (2020年4月7日 21時) (レス) id: 353512f049 (このIDを非表示/違反報告)
ユリ(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで感動しっぱなしでした (2020年3月2日 11時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - アリスさん» 毎度毎度、遅くて申し訳ないです!!最近、スランプ中でして……。どうにか必死に更新をしたいと思います……!! (2020年2月23日 10時) (レス) id: 9ec8afc8ac (このIDを非表示/違反報告)
アリス - 続きがものすごく気になってそわそわして寝られません。更新頑張ってください (2020年2月21日 22時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年7月8日 14時